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2022.03.13

早期発見が難しい「卵巣がん」最新予防法【卵巣がん・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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自治体の検診や人間ドックの中に、「卵巣がん検診」はありません。なぜなら、検診の成果が高く評価されている「子宮頸がん」と違って、卵巣がんを早期に確実に発見する検診方法はないからです。

それでも、早期発見に繋げるためにできることはあるのでしょうか?

後編では、まだまだ解明されていない事が多い卵巣がんの、最新予防法と、早期発見につなげるためのコツ、治療方法などを詳しくお伝えします。お話を伺ったのは、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)相模野病院婦人科腫瘍センター顧問の上坊敏子先生です。

検診がない「卵巣がん」を早期発見するためにできる事は?

まずは、「定期的に受ける子宮頸がん検診をしっかり受け、その機会を活かすこと」です。

卵巣がん全体の20%程度は、人間ドッグや、たまたま受けた婦人科の診察で偶然発見されています。子宮頸がん検診の時に、内診、経腟超音波検査、腫瘍マーカー検査などを受けることで、早期発見につながる可能性があります。

自治体が行なっている検診には、「超音波検査」や「卵巣がんの腫瘍マーカー」は含まれていません。費用はかかりますが、心配な方は「卵巣がんが心配なので、超音波検査をして欲しい」「卵巣がんの腫瘍マーカーの検査も出来ますか?」などと聞いてみてください。人間ドックならオプションで加えることも出来ます。特に、卵巣がんの家系だと診断されている方や、過去に乳がんまたは子宮体がんを罹患している方は、毎年検査を受けた方が安心だと思います。また、チョコレート嚢胞と診断されている女性も、担当医の指示に従って定期的な観察を怠らないようにしましょう。

卵巣がんの治療

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治療の柱は、手術と化学療法(抗がん剤治療)です。がんのステージや年齢、合併症の有無など、患者さんの状態に応じて手術と化学療法を組み合わせて治療します。放射線治療は卵巣がんに対する効果が期待できないため、あまり使われません。そのほか、最近では分子標的治療にも注目が集まっています。

手術

卵巣がんの治療では、原則としてまず手術が行われます。手術の目標は、がん組織を出来るだけ完全に摘出することです。通常、両側の卵巣、卵管、子宮、大網(胃と大腸の間にある膜)の一部を切除し、多くの場合、リンパ節を摘出します。がんが腹腔内に大きく広がっている場合は、がんをできるだけ完全に摘出するために、腸や横隔膜などを同時に切除することもあります。

将来子どもを生むことを希望している場合は、例外的に子宮とがんがない方の卵巣を残す温存療法を施すことがあります。温存療法は全ての卵巣がんが対象ではありませんから、温存療法の可否、再発のリスクなど、担当医師と十分に話し合ったうえで治療法を選択することが大切です。

化学療法(抗がん剤治療)

卵巣がんは、抗がん剤が比較的よく効くがんです。一方、手術でがんを完全に摘出したように見えても、目に見えないがん細胞が残っていることが多く、手術のみでは再発するリスクが高い病気です。そのため、ほとんどの場合、手術後に抗がん剤治療が行われます。広範囲に転移があり、手術が難しい進行した卵巣がんでも、先に抗がん剤でがんを小さくしてから完全摘出を目指した手術を行うことがあります。

最近の化学療法薬の進歩と、分子標的薬の登場によって、卵巣がんの治療成績は徐々に向上しています。

卵巣がん予防法

前編でご紹介したように、「卵巣がんのリスク」はある程度わかっています。早期発見をすることが難しいのなら、がんの発生そのものを予防する方が合理的かもしれません。以下に、主なものをご紹介します。

排卵回数が多い事は、卵巣がんの大きな危険因子です。そこで、排卵を抑える「経口避妊薬(低用量ピル)」の予防効果が注目されています。卵巣がんのリスクは1年から5年の服用で 23%、10年以上で50%以上低下します。この効果は、服用中止後も20年以上続くと言われています。卵巣がん家系の女性でも、同じように予防効果が期待できます。

ピルには避妊効果に加えて、月経周期が正しくなる、月経痛が改善される、月経量が減る、ニキビが改善されるなどの副効果があります。また、卵巣がんだけでなくて、子宮体がんの予防効果もあります。保険診療で使える薬もありますから、現在、子宮内膜症や、月経痛などでお悩みの方は、婦人科で相談をしてみることをお勧めします。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群の場合は、予防的卵巣卵管摘出術を受ける

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)や、リンチ症候群の家系を疑われる女性であれば、遺伝子検査を受けて遺伝子の異常を確認することができます。

遺伝性乳癌卵巣がんは稀な病気ではなく、日本国内でも年間数千人の女性が、乳がんあるいは卵巣がんの治療を受けていると推測されています。2020年からは、乳がんまたは卵巣がんを発症した人は、BRCA1、BRCA2の遺伝子検査やカウンセリングを保険診療で受けることができるようになりました。乳癌の既往があって、BRCA1、BRCA2の遺伝子変異がある女性は、保険診療で予防的に卵巣と卵管を摘出する手術を受けることができます。一般的に手術は腹腔鏡で行われています。いずれにしても、十分なカウンセリングが必要です。

閉経後の卵巣腫瘍は摘出する

閉経後の卵巣腫瘍の半分は悪性だと思ってください。良性と思われる腫瘍でも、摘出することが卵巣がんの予防につながります。閉経後の卵巣は女性ホルモンを分泌していないので、卵巣を摘出しても体調が変化することはありません。腫瘍の大きさ、性状、手術の必要性などについて担当医の説明を十分聞いて決定してください。

チョコレート嚢胞の摘出

「卵巣チョコレートのう胞」は、卵巣に発生した子宮内膜症です。50歳以上でがん化のリスクが非常に高くなります。10cmを超える場合もがん化のリスクが高くなりますが、6cm以下のがん化例もあります。チョコレートのう胞自体はよくある病気で、イコール卵巣がんと思う必要はありません。しかし、卵巣がんは正確な診断が難しく、子宮がんに比べると進行が早い病気です。この事を忘れずに、定期的に検査を受けて、必要があれば摘出手術を受けて欲しいと思います。チョコレート嚢胞の段階で摘出することは、卵巣がんの予防法のひとつになります。

先生からのメッセージ

卵巣がんは、早期発見も治療も難しい病気です。だからこそ、今回ご紹介したリスクに当てはまることがあれば、検査を受けたり、予防法を実践していただきたいと思います。また、リスクがない女性も定期検診など卵巣を診てもらえる機会があれば、そのチャンスを活かして超音波などの検査をしてもらってください。

今、コロナ禍で定期検診などをお休みされている方も多くいらっしゃいます。しかし、卵巣がんは非常に進行が早いもの。後悔しないためにも、先延ばしにせずに病院に足を運んでいただきたいと思っています。

上坊 敏子(じょうぼう・としこ)先生

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独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)
相模野病院婦人科腫瘍センター顧問

【プロフィール】1973年名古屋大学医学部卒業。北里大学病院で研修後、同医学部講師、助教授を経て、平成19年に教授に。同4月から社会保険(現独立行政法人地域医療機能推進機構)相模野病院婦人科腫瘍センター長、令和元年4月から現職。専門は婦人科腫瘍学。日本産科婦人科学会専門医、細胞診専門医、国際細胞学会会員、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。著書に「女医さんシリーズ 子宮がん」(主婦の友社)「知っておきたい子宮の病気」(新星出版社)「卵巣の病気」(講談社)など。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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