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2021.11.10

専門家が教える。がん治療と生活を両立するポイント【がんと仕事:後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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がんになった後も安心して働き続けるためには、どうすれば良いのか?治療と仕事を両立できる環境がまだ十分に整っていない中で、患者さん本人がすべき事、前向きに両立するための心構え、職場の協力を得るためのコツなどを、前回に続き国立がん研究センターがん対策研究所の土屋雅子先生に伺いました。

治療を続けながら働くために、一番やっておきたいこと

福利厚生や、公的資金など、有益な情報を集める

まず、最初にやっていただきたいのは、有益な正しい情報を集める事。自分が活用できる制度は、すべて活用するという気持ちが一番大切です。

職場の就業規則、支援制度、福利厚生を確認し、活用できる規則がないかを、しっかりと調べましょう。例えば、退職しないで休暇を取得するには、「有給休暇制度」「有給休暇の積立制度」「病気休職制度」などがあります。もし治療を受けながら働くなら、「時短勤務制度」「フレックス制度」「在宅勤務制度」などが利用できるかもしれません。

また、公的な支援制度を知る事も大事です。厚生労働省などのホームページなどでも調べられますが、非常に大事なことが小さな文字で記載されていたり、文章そのものが難解だったりすることも多々あります。患者さん本人が独学で詳細まで理解する事は難しいので、全国のがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院に設置されている「がん相談支援センター」に相談にいくことをおすすめします。

「がん相談支援センター」では、がんに詳しい看護師や、生活全般の相談ができるソーシャルワーカー、ハローワークの方、社労士などが相談員として対応しています。ぜひ活用してください。

職場に協力者、味方になってくれる人を増やすには?

「誰に、どこまで伝えるべきか?」というのは、立場や環境、職場の人たちとの関係性でそれぞれ違うはずです。

例えば、有給休暇を使って治療が乗り越えられるのであれば、病気のことを話す必要はないかもしれません。しかし、職場の人たちに理解して欲しい事や、配慮して欲しいことがあるならば、状況を伝えて協力を得る方が長期的には心身ともに楽になるはずです。

治療のスケジュールや、出来る事、出来ない事、協力して欲しい事など、なるべく詳細にしっかりと状況を共有する事が大切です。治療の経過によって、通院の頻度や体調なども変わります。状況が変わるたびに、細やかに説明して、自分の味方となってくれる方を見つけていただきたいと思います。

産業医に橋渡し役を頼む方法も

産業医は、患者さんと上司、人事部の方などとの橋渡しをしてくれるような役割です。患者さん自ら、職場に全て説明しようとすると、うまく本心を言えないところもありますよね?産業医がいる事業者であれば、間に入っていただいて、医師の方から分かりやすく上司や人事担当者に説明をすると、円滑に職場の環境が整うという事もあります。

主治医との関わり方のポイント

主治医に働きながらの治療を理解してもらうには?

基本的に医師は、治療を第一優先に考えます。しかし、仕事を続けながら治療を希望する場合には、治療スケジュールや治療方法を調整してくれます。

医師が提示する治療方針が、自分の意思と反していた場合には、医師が意図することをきっちり理解するのが第一歩です。医師に遠慮をしないで、分からないところは納得するまで質問しましょう。

また、医師とのミスコミュニケーションにならないよう、自分の思いをしっかりと伝えるということも大事です。仕事や家庭など、様々な事情も出てきます。「今、生活の中で優先したい事象はどんな状況にあるのか?」をしっかりと医師に伝えると、その後のスケジュールや治療に対して協力を得られやすくなるでしょう。

心配事や不明な点は医療従事者に質問を

病状や治療について、ご自分が仕事をする上で心配事があったら、遠慮なく医療従事者に聞いてください。治療で起こる副作用には個人差がありますが、ある程度は予想できます。例えば、通院での治療中に予定されている海外出張の相談をする場合、医師に「海外出張に行っても大丈夫なのか?」と聞くのではなく、「この日程でアメリカに出張に行きたいのだけれど、フライトが17時間ある。行っても大丈夫か?」などと、なるべく具体的に質問すると、的確な判断とアドバイスがもらえるはずです。

合わせて、極力控えるべきことも確認しましょう。ご自身の仕事は、ご自身が一番よく分かっているはずです。「重いものを持ってもいいのか?」「○○する仕事があるけど、今の体調で行っても問題ないのか?」と、身体にかかる負荷が伝わりやすいようにすることが大切です。

治療が進んで行くと、徐々に身体が回復してきて出来ることも増えていきます。生活を取り戻していく中で、不安や心配事があれば、その度に納得いくまで情報を更新しましょう。

もし、医師に質問し辛かったら、院内の看護師や処方箋に対応する薬剤師など、いろいろな医療従事者に聞いてみるのも一つの選択肢です。質問があるときは、しっかりとポイントを押さえて、具体的に聞くことが大切です。

がんを体験した人たちと話すこともできる

家族の誰かががんになると精神的、肉体的、経済的にと、支える側の家族にも様々な負担がかかります。諸問題に対して家族の中だけで解決しようと思っても、精神的負荷がかかりすぎて問題と向き合うのが難しくなる場合もあります。無理をせずに第三者を頼ってください。先ほどご紹介した「がん相談支援センター」は、ご家族の相談にもお答えしますし、「家族の方が相談できる家族会」を運営している団体もあります。

ただ話を聞きに行くだけでも、「自分だけじゃない」と思えて心が軽くなったり、心強く思ったりすることもありますし、生活をしていく上でのコツや、がん患者さんのケアなど、実体験に基づいた沢山のヒントをもらえたりします。一人で抱え込むことなく、胸の内を共有できる場所があることを覚えておいてください。

疑問、心配、不安など、相談できる場所を知っておこう

「がん相談支援センター」は、どなたでも相談いただけますし、お電話でも相談を受け付けています。また、「患者会」や「サポートグループ」など、病院では言いにくいことや、不安、悩みなどを共有しあえるNPO法人の活動もあります。
最近では、治療を終えたがんサバイバーの方の体験談を聞ける講演会が、オンラインで実施されています。患者さんにとって、がんサバイバーや闘病中の仲間と話し合う機会は大きな励みになりますし、経験談は今後の生活をイメージする上で非常に参考になると思います。

国立がん研究センターのHPにも、患者さんの不安や心配事などに対する回答をまとめたQ&Aを掲載しているのでぜひご一読ください。

土屋先生からのメッセージ

がんは誰にでも起こり得る疾患です。特に、kencomをご利用のみなさまは働き盛りで背負うものも多く、職場やご家族へのご心配などもあると思います。
仮にがんだと診断されて、さまざまなことで頭がいっぱいになってから積極的に情報を集めましょうというのは、非常に酷なことです。医療従事者をはじめ、相談できる場所はたくさんあります。また、国の両立支援のかたちも、徐々に変わろうとしています。万が一の時にでも焦りすぎず、さまざまなサポート体制があることを覚えておいていただけたら幸いです。

土屋 雅子(つちや・みやこ)先生

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国立がん研究センターがん対策研究所
医療提供・サバイバーシップ政策研究部

【プロフィール】
Chartered Psychologist(英国)、指導健康心理士、キャリアコンサルタント、(旧)国立小児病院研究助手、香港大学医学部助手、千葉大学看護学研究科特任研究員を経て、2015年から国立がん研究センターに勤務。これまでがん患者の就労支援に関する研究,資材開発,および研修等の講師として活動.

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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