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2022.03.09

初期には自覚症状がほとんどない「肝臓がん」。押さえるべき特徴とリスク【肝臓がん・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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日本人の死因トップの「がん」。今回のテーマである「肝臓がん」も注意すべきがんのひとつです。

肝臓には神経がないため「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状がないままに病状が進行し、不調や異変を感じた時には、かなり重症化しているというケースが少なくありません。予防のためには、さまざまなリスクを知っておくことが大切です。

お話を伺ったのは、国立がん研究センター中央病院先端医療科医長の近藤 俊輔先生です。

近藤 俊輔(こんどう・しゅんすけ)先生

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国立がん研究センター中央病院 先端医療科 医長

【専門医・認定医資格】
日本内科学会 総合内科専門医
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医、指導医
日本がん治療認定機構 がん治療認定医
日本医師会 認定産業医

そもそも、肝臓とはどんな臓器?

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肝臓は、人の臓器の中で最大の臓器です。成人では重さが1,200g〜1,400gもあり、人体に欠かせない非常に重要な臓器です。肝臓の主な役割は、食事から吸収した栄養分を取り込んで身体に必要な成分に変えることや、体内でつくられた有害物質や、アルコールや薬などの体外から摂取された有害物質を解毒し、排出することです。また、脂肪の消化を助ける胆汁を作ったり、たんぱく質の合成、ホルモンの代謝、免疫機能、血液循環の調整なども行なっています。
このように、肝臓には多くの役割があるため、肝臓に障害が起きると、身体のあらゆる箇所に大きな異変が出てしまいます。

肝臓のがんとは?

肝臓にできるがんには、肝細胞ががん化する「肝細胞がん」と、肝臓内にある胆管の細胞ががん化した「胆管細胞がん」があります。肝臓がんのほとんどが肝細胞がんにあたるため、本記事では肝臓がん(肝細胞がん)としてお話をしていきます。

肝臓がんは、B型C型などのウイルス性肝疾患や、アルコール性肝障害、脂肪肝など原因はさまざまですが、原因が何であれ、慢性肝炎、肝硬変などの慢性肝疾患により炎症が長期に続く中、肝細胞ががん化して発症します。罹患される方は男性に多い傾向があり、50歳代から増加を始め80歳前後でピークを迎えます。

また、肝臓がんは多臓器への転移が少ない反面、肝臓内で何度でも再発するという特徴があります。なぜなら、手術でがんを取っても、がんの原因となる肝炎や肝硬変が解消されていないからです。

肝臓がんの症状

肝臓には神経がないことから、がんを発症しても初期の自覚症状はほとんどありません。

肝臓がダメージを受けて「肝硬変」や「肝炎」になっていても気づかないため、不調を訴えてから「肝臓がん」の診断がされた時には、末期まで進んでいることがあります。

肝臓がんが進行した場合は、腹部の痛みや、お腹の張り、食欲不振、上腹部のしこりや黄疸、痩せるなどの症状が現れてきますが、こうした症状が現れる前の初期段階で見つけ、早期の治療が大切です。健康診断などで、肝機能の異常や肝炎ウイルスの感染などを指摘された際には、早めに医療機関を受診するよう にしましょう。

肝臓がんの原因は?

ウイルス性肝炎

日本における肝臓がんの7割は、B型肝炎ウイルスや、C型肝炎ウイルスを要因とするウイルス性肝炎から引き起こされます。ウイルスに感染し、肝細胞の中にウイルスが入り込むと、リンパ球などの免疫細胞が攻撃をします。その際、肝細胞自体もダメージを受けてしまうために、細胞が破壊されるのです。

ウイルスに感染してからといって、すぐ肝臓がんを発症する訳ではありません。特にC型肝炎の場合は肝臓の炎症が慢性的に続くと、20年〜30年といった長い年月をかけて肝臓の組織が変質していきます。肝炎や肝硬変の状態を経て、やがて肝臓がんになるのです。

かつて日本では、肝臓がんになる人のほとんどがウイルス性でした。しかし、治療法が進歩し、新薬によってウイルスを完全に排除できる確率があがり、ウイルス性肝炎が引き起こす肝臓がんは急激に減りつつあります。

お酒の飲み過ぎによる脂肪肝

近年の肝臓がんを引き起こすリスクとして、注意したいのが脂肪肝です。

お酒の飲み過ぎは、肝臓を悪くする原因になります。お酒に含まれるアルコールは、肝臓で無毒化されます。お酒を大量に飲んでしまうと、それだけ肝臓に大きな負担がかかります。肝臓では、アルコールの分解が最優先に行われるため、その間、脂質の代謝が行われなくなるため、代謝されなかった脂質は肝臓に沈着してしまいます。

この状態が続いて生じる脂肪肝が、「アルコール性脂肪肝」になります。ダメージを受け続けた肝臓は、繊維化が進み、肝機能が低下して、肝臓がんを発症する危険性が高くなります。

また、肝炎ウイルスに感染した人が大量の飲酒を続けると、ウイルスとアルコールの両方による肝硬変に進行します。

お酒を飲まない人も要注意!非アルコール性脂肪性肝

お酒を全く飲まない人も、油断は禁物です。お酒以外の原因で、脂肪肝炎や肝硬変に進行する非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)から一部は非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic Steatohepatitis; NASH) と言われます。主に、食べ過ぎや運動不足など、肥満を招く生活習慣も原因となりますが、原因不明の場合もあります。肝臓で処理しきれなかった過剰な脂肪が、そのまま肝臓に沈着してしまいます。

脂肪肝は、深刻な病気ではないと考えている人も少なくありません。なんらかの対策を打たないと肝炎に進み、やがては肝硬変や肝臓がんにまで症状が重くなるリスクがあるので注意が必要です。

薬や漢方、サプリメントの副作用

薬による肝障害は多くありませんが、薬や漢方薬、サプリメントなどでも起きる可能性はあります。
サプリメントや漢方は身体に負荷をかけないと勘違いして、気軽に用いている人が多いかもしれません。しかし、含有物の中に、肝細胞を障害する成分が含まれている場合や、アレルギー反応として薬剤性肝障害が起こる場合もあります。

こうした反応は即座に出るものから数年単位かかって現れるものまで様々です。何か身体に不調を感じたら、服用を止めて医療機関に相談するようにしてください。

肝臓がんのリスクの高い人は?

では、肝臓がんのリスクが高い人とはどんな人でしょうか?ご自身がハイリスクな人の特徴に当てはまらないか、下のチェックリストで確認してみましょう。

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セルフチェックは、いかがでしたか?

B型、C型肝炎の治療を受けていない方は、すぐにでも専門医を受診する必要がありますし、治療後も定期的な検診を心がけましょう。また、家族がウイルス感染していた場合は、念の為ご自身も医療機関でウイルス検査を受けることをお勧めします。家庭内での感染の可能性は低いといわれていますが、感染者の血液に直接触れないよう、歯ブラシやカミソリなどを共用するのはやめましょう。

また、健康診断などの血液検査などで肝障害を指摘された方も、医療機関を受診し医師に相談をしてください。

肝臓がん 最新の治療方法&予防方法は後編でチェック!

肝臓は、「沈黙の臓器」。初期には症状がないので、上のチェックリストに1つでも当てはまった方はリスクが高いと心得て、後編で紹介する「肝臓に良い生活&予防法」を、ぜひ実践してください。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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