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2021.07.01

新型コロナ感染拡大は、他の病気の発生に影響する?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナの流行により、外出自粛が求められ、手洗い・うがいなどの感染予防習慣が定着するなど、私たちの生活スタイルは大きく変化しました。この生活スタイルは感染予防への効果はありますが、それ以外の病気には影響するのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2021年5月24日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症の流行が、他の病気の診療やその予後に与える影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

コロナ感染拡大により医療体制はどう変わった?

新型コロナウイルス感染症が急激に感染拡大に至ると、病院の病床が不足して新型コロナウイルス感染症の患者のみならず、本来は入院出来る筈の他の病気の患者が、入院出来ない事態になる、というようなことが良く言われます。

たとえば、急に脳梗塞で倒れた患者さんが、救急車を要請しても、コロナの患者で病床は一杯で、受け入れてくれる病院が見付からないので、適切な治療を受けられずに死亡してしまう、というようなケースです。

特に問題になるのは、知的障碍のある方や認知症の高齢者などの急変のケースで、こうした方は通常の時期でさえ入院や救急診療を断られるケースが多く、それがコロナの流行時期ともなると尚更で、僕が嘱託医としている老人ホームでも、普段は患者さんを受け入れてくれる病院の多くが「一切受け入れは出来ません」と、最初から言われてしまうケースが多くありました。

ロックダウンは感染症を予防する反面、病気をもたらす場合も

このように、コロナ禍の医療体制に多くの問題が生じることは事実ですが、その一方で本来必要性の高くない医療行為や入院が自然と制限されるために、むしろ多くの病気の罹患率は減る、というような現象もまた報告されています。

実際海外でのロックダウンのような状況では、不必要に出歩くことがなくなり、感染対策にも注意をするのでコロナ以外の感染症は激減しますし、脳卒中や喘息の急性増悪、心筋梗塞などの急性疾患も、風邪などの感染症をきっかけとして起こることが多いので、そうした病気の発生も減少する可能性があります。

ロックダウンのような人流を制限する政策は、それが長期化すると経済的にも心理的にも多くの悪影響をもたらし、従来ではそれほどなかった病気の増加などにも繋がりますが、短期間であって経済的な補償なども適切に行われれば、むしろ公衆衛生上メリットとなる可能性もある訳です。

このように、新型コロナウイルス感染症の流行や、それに対するロックダウンなどの政策のトータルな医療や健康に与える影響は、それほど単純なものではありません。

デンマークの調査では、ロックダウンによりコロナ以外の死亡率が増加

今回のデータは国民総背番号制の敷かれているデンマークのもので、デンマークでは2020年3月11日から4月15日までに最初のロックダウンが、12月16日以降で2回目のロックダウンが施行されています。このロックダウンとそれに挟まれた時期の、コロナと他の疾患の入院件数の推移と、その予後についてを疾患別に比較検証しています。

その結果、コロナ感染拡大以前の時期では、1週間人口10万人当たり204.1人が入院していたのに対して、最初のロックダウン施行後には、これが1週間人口10万人当たり142.8人と、70%(95%CI:0.66~0.74)に減少し、ロックダウン解除後は徐々に元の水準に戻りましたが、2度目のロックダウン後には、1週間人口10万人当たり158.3人と、78%(95%CI:0.73~0.82)に再び低下しています。

つまり、トータルな入院数はロックダウンで低下しロックダウン後に元に戻っています。

次に入院後30日以内の死亡リスクを見てみると、初回のロックダウン後に1.28倍(95%CI:1.23~1.32)、2度目のロックダウン後に1.20倍(95%CI:1.16~1.24)と、通常の時期と比較して高くなっていて、特にコロナ以外による呼吸器疾患、癌、肺炎、敗血症による死亡リスクは、ロックダウン解除後の時期も含めて持続的に高い水準となっていました。

日本でも同様の検証は必要

このように、ロックダウンを行なうとコロナ以外で病院を受診することは減りますから、コロナによる入院は増加してもトータルでは入院や病院の利用は減少しますが、医療資源の多くがコロナ対応に振り向けられ、患者さん自身も受診を控えるようになるので、その生命予後は悪化することが想定されます。

ただ、これは勿論デンマークの個別のケースで、仮にもっと爆発的なコロナ患者の増加が起こればより明確な医療崩壊となって、入院自体も増加するケースもあり得ます。

日本においてもこのような検証は必要ですし、特にどのような患者さんにとって不利益が生じるのか、その点にはかなり偏りがあると想定されるので、その点の検証も是非必要ではないかと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36