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2021.07.22

新型コロナウイルスの飛沫感染のメカニズム【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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コロナ感染を防ぐために、マスク着用が当たり前の日常風景になりました。
ウイルスはマスクの隙間を通り抜けてしまうという話もありますが、実際マスクにはどれくらい感染を防ぐ効果があるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Journal of Internal Medicine誌に、2021年7月8日ウェブ掲載されたレビューですが、新型コロナウイルスの飛沫感染と飛沫核感染(エアロゾル感染)について、現時点での知見をまとめたものです。

▼石原先生のブログはこちら

飛沫とエアロゾルの違いとは?

新型コロナウイルス感染症の感染力は非常に強く、正確には不明の点が多くありますが、一部の変異株においては、よりその感染力は増していると想定されています。

その感染の主体は飛沫感染です。つまり、ウイルス粒子を含む水や粘液の塊が、鼻や口の粘膜から侵入して感染を引き起こすのです。

その飛沫は大きさが100μmを超えるような大きな物から、15μmより小さなものまで様々ですが、空気中に浮遊した段階からその大きさは3分の1くらいに縮小します。大きな飛沫は遠くまで飛ぶ一方で、すぐに落下して下に落ちてしまいますが、小さな飛沫はそのまま空気中を長期間漂うという性質があります。これがエアロゾルです。

屋外での感染は主に大きな飛沫によるもので、口から弾丸のように放たれた飛沫が、そのまま相手の口や鼻に飛び込むことにより感染が起こります。「唾を飛ばしてまくし立てる」というような言い方がありますが、お酒を飲みながら大声で喋っているような人では、口から飛ぶ唾が見えますよね。あれが大きな飛沫です。

一方で小さな飛沫は直接弾丸のように相手に当たるということではなく、そのまま周囲に空気中にエアロゾルとして漂って、それが相手の呼吸により鼻や喉から吸い込まれます。室内ではこのエアロゾル感染が主体となり、換気が不十分な状態であれば、その空気中の濃度が高まるので、感染のリスクが増加するのです。

コロナ感染を抑制するには、エアロゾルの吸い込みを防ぐのが有効

大きな飛沫による直接の飛沫感染と、エアロゾルによる感染のどちらが主体であるかは、まだ議論のあるところですが、屋外では感染リスクはかなり下がると言う事実は、エアロゾル感染がかなり大きな比率を占めることを、示唆する根拠ではあるように思われます。

接触感染と言って、ウイルスの付着した物を介しての感染も、ドアノブや水道の蛇口などを介して、可能性としては指摘をされていますが、当初考えられたほどその比率は大きなものではないようです。

現状この飛沫感染を予防する最善の方法は、ユニバーサル・マスキング、要するに複数の人と接触する可能性のある場では、症状のあるなしに関わらず全員がマスクを装着することです。

換気をよくすることは、エアロゾルの濃度を低下させるという点で有効です。

パーテーションなどの使用は、大きな粒子による直接の飛沫感染の予防にはなりますが、エアロゾル感染の予防にはならないのでその有効性はかなり限定的です。ただ、屋外でパーテーションを使用することは、屋外の感染が直接の飛沫感染主体であることを考えれば有効であると推定することが出来ます。

マスクの有効性を図示したのがこちらです。

上の図がマスクのない場合です。大きな青い粒子はそのまま相手に到達し、エアロゾルとして周囲を漂う小さな粒子は、呼吸に伴って体内に入ります。

これが下の図のように両者がマスクをすることにより、完全にエアロゾル感染まで阻止することは出来ませんが、侵入するウイルス量を格段に減らすことになるのが分かります。

マスクで侵入するウイルス量を減らして

マスクの隙間よりウイルスは小さいのだからマスクは無効だ、とする意見がありますが、通常はウイルス単体で感染が成立することはなく飛沫として侵入するので、飛沫の阻止にはマスクが有効というのがその反論なのです。

これまでのデータの解析の結果、理屈の上ではたった1個のウイルス粒子によっても感染は成立するという可能性があります。

ただ通常少量のウイルスは、殆どが身体の自然免疫の働きによって駆除されますから、その感染確率はかなり低く、大多数の感染はある程度多くのウイルスに曝露された時に初めて感染が成立すると考えた方が良いようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36