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2020.11.27

新型コロナウイルス感染症回復後の検査「陽性」をどう考えるか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルス感染症は、治癒したと思っても時間が経ってからPCR検査をすると「再度陽性」になっているということがあるようです。これはどういうことなのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に2020年11月12日ウェブ掲載された、臨床でも問題になることが多い、一旦感染から回復した後に、時間をおいて遺伝子検査が陽性になる現象についてのレターです。

▼石原先生のブログはこちら

新型コロナ治癒後に陽性化するのは、再感染か?持続感染か?

今では必要条件となっていませんが、以前は新型コロナウイルス感染症の治癒判定として、24時間を置いての2回のRT-PCR検査で、いずれも陰性であること…という基準がありました。

大半の患者さんでは、発熱や咳などの症状が改善して数日が経過すれば、検査も陰性になるのですが、中には一定数、症状はすっかり回復しているのに、何度検査しても結果は陽性ということがあります。

報告によれば、2から3ヶ月以上RT-PCRの陽性が持続している、というような事例も報告されています。

ただ、症状の出現から10日以上が経過し、3日以上無症状であれば、その時点でウイルスが感染して増殖するという事例は、報告されていないので、そうした条件をクリアした時点で、再度RT-PCR検査をする必要はない、というのが現状の臨床的な指針となっています。

ただ、実際には検査をして再度陰性が証明されないと、出社を許さないというような規定を社内で決めているような会社もあって、クリニックでもその対応に苦慮しているところです。

一方で一旦2回のRT-PCR検査でいずれも陰性になり治癒が認められたのに、その数週間後に検査をしたらまた陽性になった、というような事例も報告されています。

こうした事例が再感染であるのか、それとも持続感染であるのか、という点は今でも議論になるところで、明確な結論が得られているという訳ではありません。

治癒後PCR検査で2回陰性になっても、2割弱は再度陽性に

そこで今回の研究ではイタリアにおいて、新型コロナウイルス感染症と検査で診断され、症状が回復して3日を経過し、24時間の間隔で2回行われた鼻腔からのRT-PCR検査で、2回とも陰性であった176名の患者の経過を追いました。

発症から1ヶ月から2ヶ月くらいの時点で、再度RT-PCR検査を施行して、陽性となった事例の検証を行っています。その結果、検査の行われた176名のうち18.2%に当たる32名で、RT-PCR検査は再度陽性となっていました。

陽性になった回復患者の血液の抗体価は、1名を除いてIgG抗体もIgA抗体も陽性化していて、血清学的には再感染の可能性は否定的でした。

鼻腔のサンプルからウイルスの複製が確認されたのは、32名のうち1名の検体のみで、それ以外ではウイルスの周囲への感染可能性は否定的と思われました。

陰性後に陽性化するのは稀な現象ではない

このように、実際に2割近くの患者さんでは、一旦陰性後に遺伝子検査が陽性化しており、これは決して稀な現象とは言えないことが確認されました。

おそらく、治癒後もウイルス遺伝子自体は、鼻腔で検出されることがあるのですが、抗体は血液中で検出され、ウイルスの複製は困難であることから考えて、これは再感染ではなく一般的な意味での持続感染でもない可能性が高いと、そう考えて大きな誤りはないようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36