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2021.06.25

惚れた病に薬なし:理性も薬もきかない恋の病【健康ことわざ#16】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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惚れた病に薬なし:飛鳥井雅康などの歌人の作とされる「七十一番職人歌合」(室町時代)の三十四番。

意味:恋患いに特効薬はないということ。

解説

惚れた病、恋の病、恋患いに身を焦がすのは若者の特権です。いい年をした既婚者がこの病に罹ることもあるでしょうが、その後に起こるであろうドロドロした跡始末を考えると、歓迎できません。しかし昔、フランスの歌に「7歳から77歳まで、若い心を持つ人の罹る病」との歌詞がありました。つまり、「ゆりかごから墓場まで」広く流行る病気だということです。
 
「恋は盲目」、「恋は闇」、「恋は思案の外」とも言われます。「盲目」や「闇」には二つの意味がありそうです。

ひとつは、恋に落ちると、理性や常識を失った行動を取ること。遠ければ遠いほど逢いたくなり、「惚れて通えば千里も一里」のつもりが、「逢はで帰ればまた千里」にもなる無茶な行動を起こしたりします。

もう一つの意味は、好きになった相手の欠点が分からなくなること。思い込むと周囲の説得を頑として聞き入れなくなります。

恋患いは病気ではない

惚れるという感情、そこに至るまでの推移には、その人がそれまでに培ってきた価値観、考え方、生き方、審美眼などが複雑に絡み合っているのでしょう。あるいは、若気の至りや美しい誤解があるかもしれません。

仏教では人の病気全体を四百四病と呼びますが、恋の病をことわざは「四百四病の外(ほか)」として、病気ではないと言います。病院にも、確かに「惚れた腫れた診療科」はありません。
 
有名人の色恋沙汰は耳目を集めます。どんな場合も、「惚れた病に薬なし」なのです。ご当人は恋の「闇」の中ですから、周囲が何を言っても無駄、黙って放っておくより他に手はないのです。いたずらに騒ぎ立てれば、ますます頑なになるだけです。
 
「恋の病」は、ある意味では美しくもあり、微笑ましくもあるのですが、周囲の者には手の施しようがありません。食事療法もワクチンも役に立たず、手術もできません。病気ではありませんが、病気を超える難病なのでしょう。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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