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2021.03.26

笑う門に福来たる:作り笑いはともかく、笑いは健康の基【健康ことわざ#10】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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笑う門に福来たる:作者不明の狂言「筑紫奥」(室町末以降)

意味:楽しげな笑顔や笑い声で、にこやかにしている人の家にはどこからともなく幸運がやって来るということ。

解説

えへらえへら笑っていれば幸運が来るのであれば、こんなに楽なことはありません。このことわざの裏には、困難な状況にあっても希望をもって頑張っていれば、幸せをもたらすことができる、という大切な前提があるのでしょう。人生を肯定的に捉えているためか、現代でも多くの人に愛されていることわざです。笑いは幸運をもたらすだけでなく、健康にもよいことは、医学的にも研究されています。お笑いを見聞きした時の大笑いは、呼吸の面からも、免疫の面からも極めて有効であるとされています。特に高齢者の大笑いは、脳の活性化に大きな効果があるということです。笑いは考え方をポジティヴな方向に導きます。
 
笑いと対極をなすのは、怒りとか喧嘩ではないでしょうか。ことわざは「憤怒は最も悪い助言者」と言っています。「憤怒」はきつい言葉です。もう少し柔らかく「腹は立て損、喧嘩は仕損」とも言います。腹を立てて喧嘩をするのは、どちらかと言えば気の短い人に多いのでしょう。ですから、「短気は損気」の言い回しもあります。この二つのことわざは語呂もよいので、覚えておいて「損」はないでしょう。

笑いを素直に読んだことわざは稀

「顔で笑って心で泣く」は、心中の悲しみをおし隠して笑顔で人に接することです。「笑みの中の剣」という恐ろしいことわざもあります。内面と外面が反対である様を述べています。「過ぎた事いえば鬼も笑う」は、過去の栄光や失敗にいつまでも拘泥するのは無意味で、人に馬鹿にされるだけだと言っています。また、ことわざ「泣いて暮らすも一生、笑って暮らすも一生」は、同じ一生でも心掛けや態度、意欲や物事に対する姿勢の持ち方が大きく影響することを語っています。
 
「笑い」に関することわざは多様です。その中で、笑いの積極的な面をストレートに表現した「笑う門に福来たる」は秀逸な句といえます。苦虫を噛み潰したような顔つきで生きるよりは、いつも笑顔で、そしてたまには大笑いをして楽しく生きる方が、はるかに健康的です。笑いのある生活を心掛けましょう。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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