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2021.02.12

味噌を擂(す)る:どうして味噌は擂らなければならないのか?【健康ことわざ#7】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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味噌を擂(す)る:漫画風刺雑誌「驥尾団子」200号に掲載の戯画(明治15年)

意味:おべっかを使ったり、おべんちゃらを言うこと。

解説

日本の主食・米は炭水化物に富み、エネルギー源として有効な食物ではあるのですが、身体を作るたんぱく質や、脂肪に欠ける欠点があります。それでは、日本人はどのようにしてたんぱく質を摂取してきたのでしょうか。それを教えることわざが「大豆は畑の肉」です。西洋では、肉を食べてたんぱく質と脂肪を摂っていたのに対し、日本人は大豆を通してそれらを身体に摂り入れていました。日本の代表的な食品である味噌、醤油、納豆、豆腐は大豆が原料であり、日本人の貴重なたんぱく源だったのです。

たとえば、味噌は茹でた大豆に塩、麹を混ぜて作られる発酵食品です。江戸時代はどの家でも味噌を作っていました。だから、「味噌を買う家は倉(くら)が立たぬ」と言われ、また、自分の味噌が美味しいという自慢から「手前味噌」のことわざが今に伝わっています。

「医者と味噌は古いが良い」は、経験豊かな医者程頼りになるものはないと言いつつ、味噌も時間が経って熟したものが旨いと述べています。ところが、味噌を一年置いても、二年置いても、原料の大豆は崩れずに形を保ったままです。そこで味噌を使う前に、擂粉木鉢(すりこぎばち)に入れて擂粉木棒でつぶす必要がありました。すると、つぶされた味噌は擂粉木鉢のあちこちにべったりとこびり付きます。そのことから「味噌を擂る」は、あちこちにおせじを言う、へつらうの意味に使われるようになりました。胡麻も同じですから、今では「胡麻を擂る」が広く使われています。

塩分過多に要注意!

味噌は、今は調味料に分類されますが、かつては「おかず」でした。宮沢賢治の「雨にも負けず、風にも負けず」の中にも、「一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ」と記されています。玄米と味噌を食べていれば、炭水化物、たんぱく質、脂肪、ビタミン類は摂取できましょう。

味噌の塩分の多さが気になりますが、野菜を多く食べることで塩分過多の解消になるでしょう。もしもその野菜が漬物であれば、塩分過多は避けられません。日本人はずっと塩分を摂り過ぎてきました。野菜や果物に含まれるカリウムを摂取することで、ナトリウム(塩分)の体外排出が促進されます。「朝の果物は金」とのことわざもあります。朝に限らず果物や野菜を食べるのは、大切なことです。バランスのとれた食事は健康の基です。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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