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2021.04.09

亭主は達者で留守が良い:夫婦関係は時代とともに変化する【健康ことわざ#11】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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亭主は達者で留守が良い:鈴木棠三「故事俗信ことわざ辞典」小学館(1982年)

意味:夫は健康でありつつ家にいない方が妻は気楽に過ごせるということ

解説

コピーライター石井達矢氏による1986年のCM「亭主元気で留守がいい」がよく知られています。しかし、その4年前に出版されたことわざの辞書に、「元気」ではなく「達者」を使ったことわざがすでに掲載されていました。「達者」は語呂が良いので、本記事ではそちらを採用します。
 
このことわざの前提は、「夫が達者である」という点にあります。病気で寝込んでいては、こんな言葉は出てきません。達者な夫が毎日夜遅くまで働けば、妻は一日の大半を気兼ねなく使えます。ところが、休日、特に長い連休に入り、夫が一日中家の中でごろごろして、何だかんだと注文を付ける状況になれば、こんな言葉を言い出したくなるのでしょう。家庭内でストレスを溜めたくないものです。

夫婦関係を表すことわざは多彩

夫婦関係を詠むことわざは少なくありません。「蚤の夫婦」、「嬶天下にからっ風」、「亭主の好きな赤烏帽子(えぼし)」、「負わず借らずに子は三人」などなど。江戸前期から「割れ鍋に綴蓋(とじぶた)」がしばしば用いられています。どんな人にもその人にふさわしい連合いがいるたとえです。「割れ鍋」は、縁が欠けた程度のまだ使える鍋、「綴蓋」は修理した蓋を表し、夫婦双方に至らない点はあっても、互いを容認して補い合えば、事がうまく運ぶという夫婦関係を言っています。
 
明治前期のことわざに、「うどん蕎麦より嬶の傍」が残されています。美味しいうどんや蕎麦を食べるより女房の傍(そば)がいいとの意味です。女房を「『嬶』かか(あ)」と呼んでいますから、夫婦が助け合いながら生きていた様子が窺えることわざです。
 
「歌は世につれ世は歌につれ」のことわざのように、上に挙げたことわざは、夫婦関係も世相を反映し、時代とともに移り変わる様を教えてくれます。

現代では夫婦共働きが当たり前になっています。ものの数十年で生活様式がガラリと変わったことを見れば、また新しい時代の夫婦関係を表すことわざが生まれるかもしれませんね。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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