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2021.05.28

変異株にも効果が期待されるノババックス社のワクチンとは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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日本ではあまり耳にしない、アメリカのバイオベンチャー企業、ノババックス社。今、ノババックス社は日本の武田薬品と提携して、国産の新型コロナワクチン製造を進めているのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に2021年5月5日ウェブ掲載された、ノババックス社製の新型コロナウイルスワクチンの、南アフリカでの臨床試験結果をまとめた論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ノババックス社ののNVX-CoV2373ワクチンとは?

今日本ではファイザー社によるmRNAワクチンが、唯一正式採用されて接種されていて、これから国主導の接種で、モデルナ社によるmRNAワクチンが接種開始予定ですが、ノババックス社のNVX-CoV2373ワクチンも、日本では武田薬品と提携する形で、今後接種開始が進められているワクチンの1つです。

ノババックス社はアメリカのバイオベンチャーで、こちらは不活化ワクチンに近いタイプのワクチンです。

これは昆虫の蛾の細胞に、バキュロウイルスというウイルスを感染させ、そのウイルスの遺伝子に、新型コロナウイルス由来の突起部位のタンパク質の遺伝子を発現させて、蛾の細胞の中で、新型コロナの抗原タンパク質を大量に作らせ、それに免疫増強剤(アジュバント)を添加して、ワクチンにするというものです。

ナノパーティクルワクチンという名前が付いていて、これは抗原そのものよりも、少し大きな粒子が産生されるので、より免疫を強く刺激する作用がある、ということのようです。抗原を身体に入れるという意味では、従来の不活化ワクチンに近いものなのです。

武田薬品と提携して国内で作る、「国産」ワクチン

ノババックス社のワクチンの特徴は、ベンチャー企業で大量にワクチンを作るような工場を持っていないので、他の製薬企業と提携してその企業の工場でワクチンを1から生産する、という方針であることです。

日本では武田の工場を利用して、「国産」ワクチンとして製造するという方針であるようですし、報道では韓国でも、同様の契約がされているようです。

国内でワクチンを生産出来た方が、量の調整は見込みも立ちやすいですし、「国産」ワクチンです、というような言い方も可能なので、自国で充分なワクチン生産が困難な国にとっては、都合の良い仕組みなのだと思います。

従来株への有効率は89.3%

それではこのワクチンの有効性はどの程度のものなのでしょうか?

まず最初に流行した従来株主体の感染に対する有効性としては、ファイザーやモデルナ社のmRNAワクチンが、94から95%という高い有症状の感染予防効果を示していて、ウイルスベクターワクチンは、概ねそれよりは低い有効性を示しています。

最近評判の悪いアストラゼネカ社のワクチンでは、同様の有効性は70%程度です。一方でこのノババックス社製ワクチンの有効率は、89.3%というイギリスでの臨床試験データがあります。

ここで問題は変異株、特に南アフリカ型とされる、B.1.351株に対する有効性です。この変異株に対するアストラゼネカ社ワクチンの有効性は、全く確認されなかったからです。

変異株にも一定の効果あり

今回の臨床試験は南アフリカで施行されたもので、遺伝性解析された41例の感染事例のうち、92.7%に当たる38例はB.1.351変異株ですから、ほぼ全てが変異株に置き換わった流行における、ワクチンの有効性を見ている、ということになります。

6324名を登録してくじ引きで2つの群に分けると、一方はノババックス社製ワクチンを3週間間隔で2回接種し、もう一方はただの食塩水を接種して、その後12か月の経過観察を施行しています。

ただ、今回については2回目の接種後7日以降、概ね1か月程度の期間の観察結果が報告されています。実際に1回以上の接種が施行されたのは4387名です。登録の時点でほぼ30%の患者は新型コロナの抗体は陽性で、登録時点で陰性であった2684名のうち、94%はHIVは陰性で6%はHIVは陽性でした。

ワクチン接種群のうちの15名と、偽ワクチン使用群の29名が、観察期間中に新型コロナウイルスに感染が確認されていて、ここからワクチンの有効率は、49.4%(95%CI:6.1~72.8)と算出されました。

だるさや痛みなどの副作用や有害事象は少ない

HIV陽性者では、免疫の低下によりワクチンの有効性は低下が予測されるので、HIV陰性者でのみ解析すると、ワクチンの有効率は、60.1%(95%CI:19.9~80.1)と算出されました。事後解析として、B.1.351変異株のみの有効率を計算すると、51.0%(95%CI:-0.6~76.2)となりましたが、ばらつきは大きく、あまり信頼性の高い結果ではありません。

ワクチンの安全性については、だるさや痛みなどの症状については、mRNAワクチンの同種の調査よりは明らかに少なく、トータルには副作用や有害事象は少ないという結果でした。ただ、数例ですが重症の有害事象の報告もあり、今後もっと多数例での検証が必要とは考えられます。

個々のワクチンの特性を考慮して検証を

このように、ノババックス社の新型コロナウイルスワクチンは、南ア変異株の感染に対しても、一定の有効性は確認されました。今後変異株に適合したワクチンの開発も進むと思われますが、現状は個々のワクチンの特性を考慮しつつ、その検証を積み上げて行くしかなさそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36