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2020.05.01

新型コロナウイルス感染症とインフルエンザ肺炎の違いとは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルスと同様、呼吸器に苦しい症状が出てしまうインフルエンザ。
実はインフルエンザのほうが重症化すると怖いという話もあるのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Chest誌に2020年4月11日ウェブ掲載された、重症化してARDSを来した、新型コロナウイルス肺炎と、インフルエンザ肺炎の特徴を比較した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

新型コロナウイルスとインフルエンザ、どっちが重症化する?

新型コロナウイルス肺炎が報告され始めた頃、同じ時期に流行していたインフルエンザと比較して、肺炎になった時の重症度や予後は、インフルエンザの方が重い、というような指摘がありました。

新型コロナウイルス肺炎も、流行性感冒の一種だ、というニュアンスがあったのですが、その後新型コロナウイルス感染症が、世界的なパンデミックになるに至って、「インフルエンザより軽い」というような意見は影を潜めました。

しかし、以前は新型コロナウイルス感染症が、実際より軽く見られがちであった反面、今は重く考えられすぎている、というきらいもなくはありません。

この2つの感染症の重症型を、直接比較してみるとどのような違いがあるのでしょうか?

肺炎像にはどのような違いがあるか

今回の研究は中国の2つの病院において、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)という重症の呼吸不全を発症した、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)肺炎の患者73名と、同じくARDSを来した季節性インフルエンザ(H1N1)肺炎の患者75名を、比較検証しています。

その肺炎像にはそれなりの違いがあります。
こちらをご覧下さい。

こちらは新型コロナウイルス肺炎の患者さんのCT画像です。
上のAは60歳の男性患者で、典型的なすりガラス様の病変が、両肺に複数認められています。
下のB(画像のクレジットが誤っている)は75歳の男性患者で、すりガラス様の変化が肺全体に及んでいます。

次に季節性インフルエンザ肺炎の画像です。
こちらをご覧下さい。

上のCは46歳の女性患者で、内部に気管支の透亮像のある浸潤性陰影が、比較的広い範囲に認められています。
陰影はすりガラス様陰影より濃くクッキリとしています。
少し肺の間に水も溜まっています。
下のDは66歳の男性患者で、こちらはすりガラス様の陰影が主体ですが、一部に胸水の貯留も認められます。

このように、新型コロナウイルス肺炎ではすりガラス様陰影が、インフルエンザ肺炎では浸潤性陰影が、比較的その特徴で、新型コロナウイルス肺炎では94.5%にすりガラス様陰影が見られ、インフルエンザ肺炎では45.3%に留まっているのに対して、浸潤性陰影はインフルエンザ肺炎で多くなっていました。
ただ、勿論画像のDのように、インフルエンザ肺炎なのに画像の特徴は新型コロナウイルス肺炎様、ということもあるのです。

インフルエンザ肺炎は死亡率も高く、臓器の合併症も重い

症状として新型コロナウイルス肺炎では、乾いた痰の絡まない咳が多く、だるさが強く、下痢などの消化器症状も多い、という特徴が見られます。
その一方でインフルエンザ肺炎では、痰がらみが強いという特徴があります。

そのARDSでの予後については、意外にもインフルエンザ肺炎の方が生命予後が悪く、新型コロナウイルス肺炎での死亡率が28.8%であるのに対して、インフルエンザ肺炎の入院中の死亡率は34.7%でした。

臓器障害の重症度を示すSOFAスコアは、新型コロナウイルス肺炎よりインフルエンザ肺炎でより高く、インフルエンザ肺炎の方が臓器の合併症がより重くなっていました。

この臓器障害のスコアを補正しても、新型コロナウイルス肺炎より、その重症度はインフルエンザ肺炎の方が高くなっていました。

インフルエンザのほうが重症化する可能性もある

今回のデータは条件を合せた適正な比較とは言い難いものですが、インフルエンザ肺炎が重症化した場合と比較して、その生命予後は必ずしも新型コロナウイルスでより高い、ということはなく、新型コロナウイルスへの恐怖感から、多くの人はインフルエンザより重い病気と捉えがちですが、その肺炎の重症度に関しては、むしろインフルエンザより軽い可能性もあるという知見は、今だからこそ押さえておいた方が良いように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36