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2021.09.17

匂い松茸味しめじ:キノコの美味しい季節になりました【健康ことわざ#22】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

イラスト:今井ヨージ

イラスト:今井ヨージ

匂い松茸味しめじ:馬角斎編「日本俚諺大全」(1906~1908年)大阪滑稽新聞社。

意味:物事にはそれぞれ長所・特徴があるということのたとえ。

解説

「香」、「臭」、「匂」、嗅覚である鼻が感知する対象はこの三つの漢字で書き表します。
この内、「香」は良いにおいを指すことが多く、「磯の香」などに使います。それに対し「臭」は悪いにおい、くささを表し、「悪臭」などに使います。最後の「匂」は、は良い・悪い・好ましい・不快など、鼻で感じるものすべてに使い、「いい匂い」、「魚の腐ったような匂い」などと使われます。
この中で、「匂」のみが大和言葉です。その言葉も、古くは視覚に関する表現でした。

たとえば、百人一首にも選ばれた伊勢大輔の有名な句「いにしえの奈良の都の八重桜 けふ九重に にほひぬるかな」の後半部分は、「今日は九重の宮中で、ひときわ美しく咲き誇っております」のように、「匂う」は、「色美しく咲く」の意味に使われています。しかし、その後、嗅覚に関連する語として使われるようになったのです。今回のことわざの前半部分は「匂い松茸」ではなく、大和言葉を使わない「香り松茸」と表現されることもあります。

マツタケとシメジだけがキノコではない

私の大好きなフレンチ・レストランが長野県の茅野にあります。8月になると、地元産のキノコの料理が出ます。美味しいので必ず注文することにしています。それは、マツタケでもシメジでもありません。最近食べたのは、アカヤマドリというキノコです。料理法にもよるのでしょうが、有名なキノコだけが美味しいわけではないのです。

「匂い松茸 味しめじ」、マツタケの香りのよさは誰もが認めるところですが、シメジの味はことわざが言う通りなのでしょうか。実は、このシメジは、「ホンシメジ」という種類で、普通に売られているシメジ、「ブナシメジ」とは異なる種類なのです。一度、「ホンシメジ」を食べてみたいと思っています。

「きのこ取った山は忘れず」のことわざがあります。一度良い思いをしたことは忘れない、の意味です。そんな良い思いをしても、「きのこの出る山は孫にも知らすな」のことわざになります。可愛い孫にさえ教えないくらいキノコは大事なのです。

旨いものは人の心を偏狭にする、そんな側面があるのかもしれません。そうは言っても、秋の味覚を存分に楽しみたいものです。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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