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2021.07.16

空きっ腹にまずい物なし:料理を頂く態度や振る舞い【健康ことわざ#17】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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空きっ腹にまずい物なし:恵海著「類聚世話百川合海」(1776年)。

意味:腹が減っている時には何を食べても旨いという意。

解説

空腹時の食事を旨いと感じるのは、日本人だけではありません。西洋でも、「空腹は最高のソース」(デンマークなど)、「空きっ腹に堅いパンなし」(ポルトガルなど)があります。

どれも「空きっ腹にまずい物なし」と似た内容のことわざです。古いラテン語にも「飢えは食べ物の調味料」のことわざがありますし、ベトナムにも「腹が空いている時は何でも美味しい」のことわざがあるそうです。古今東西を問わず、空腹のときに人が感じることは変わらないようです。

しかし、どんなに空腹でも「絵に描いた餅」は食べることはできません。もっとも、このことわざは、形はあっても実際には何の役に立たないことのたとえの他に、計画や企画だけは立派でも実行が伴わない、との意味にも使われます。後者の意味では「机上の空論」や「空中の楼閣」なども使われます。

空腹であろうとなかろうと、「河豚(ふぐ)は食いたし命は惜しし」は、悦楽は味わいたいが、のちのちの祟りが怖くてためらう、との意味に使われます。フグの調理法が確立された現代では、フグ毒の心配は無用です。

満ち足りた生活は奢りを生む

「藜羹(れいこう)を食らうものは大牢(たいろう)の滋味を知らず」という難しい字のことわざがあります。 藜羹(れいこう)は、アカザ(藜)という雑草を汁物(羹・あつもの)の具に使う粗末な食事の意です。

一方の大牢は立派な料理、御馳走の意味で、中国の歴史に由来します。ことわざは、「1.粗食に慣れたものにはごちそうの味がわからないこと」から、「2.つまらない人間には高尚なことや重大なことは理解できない」、の意味に使われます。

ひもじい思いをする人がいる一方で、贅沢な暮らしをする人もいるのもこの世の中です。「栄耀(えよう)に餅の皮を剥く」のことわざは、これ以上ない贅沢をする、あるいは極めて奢り昂ること、の意味に使われます。

栄耀は「えいよう」とも読み、贅沢の意味です。剥く必要のない餅の皮を剥いて食べることから、贅沢に慣れてしまった状況を描いています。ある辞書には、餡餅の皮を剥いて餡だけを食べる、とあります。

誰もが美味しい料理を食べたいと考えているでしょう。どんな時も、料理は慎ましやかに頂きたいものです。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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