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2021.03.12

腹八分に医者いらず:がつがつと腹一杯食べるのが健康的か【健康ことわざ#9】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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腹八分に医者いらず:蜂屋茂橘(椎園)編「国字分類 諺語」(幕末頃)。「いろはカルタ」にも収録。

意味:食べ過ぎにならないように腹八分目の食事を摂っていれば健康だということ。

解説

暴飲暴食を戒めることわざです。腹八分とは何か、それはとても難しい問題です。胃の大きさ(容積)がわかれば八分目の量も分かりますが、胃は収縮しますから、大きさは定まりません。そもそも、満腹と感じるのは胃ではなく、脳のようですから、胃の大きさを測っても意味はありません。「十分はこぼるる(こぼれる)」とも言われています。なみなみ注がれた杯や、ぎりぎりまで水の入ったコップは、口に運ぶまでにこぼれてしまいます。適量が肝心と述べているのです。少しニュアンスの異なることわざに「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」もあります。そこで、いくつかのことわざを用いて、健康に良い食べ方を考えましょう。
 
最初は、「早飯も芸のうち」です。さらに極端な表現には「早飯 早糞 早算用」があります。食事と用便と計算は早い方がよい、と言っています。「旨い物は宵に食え」は、味が落ちる前に食べないと、せっかくの旨いものも台無しになる、「善は急げ」の食べ物版です。

江戸時代の偉大な学者、貝原益軒も警告している

ゆっくり味わって食べれば、徐々に血糖値も上昇し、脳が満腹感を感じるようになり、大食いは避けられます。また、「鯛も一人は旨からず」のことわざは、周りの人と和気あいあいとお喋りしながら食べる食事は美味しい、との主張です。お喋りしながらの食事は、ゆっくり食べて、また楽しいことから消化にも良いのでしょう。このことわざは、たとえ「鯛」という食材の名前が挙がってはいても、何を食べるかを問題にしているのではなく、どのように食べるかを強調しています。

江戸時代の儒学者・貝原益軒はその著書「養生訓」の中で、食べ過ぎと呑み過ぎを、度々注意しています。また、「たとえ美味しいものといえども、八分九分で止めるべし。十分に満ち足りてしまえば、後に禍を残す」と書いています。「十分はこぼるる」なのです。食べ過ぎによる肥満などが健康に良くないことは、現代の科学も指摘しています。どれだけ食べるか、どのように食べるかのことわざは少なくありません。その筆頭が、「腹八分に医者いらず」なのです。食べ方は健康にも通じるのですね。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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