メニュー

2021.07.30

目には目を歯には歯を:やり返すにも限度がある【健康ことわざ#18】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

記事画像

目には目を歯には歯を:ハンムラビ法典(紀元前18世紀)に記された規定。

意味:他人から受けた危害や損害の復讐は、受けた被害と正確に同等でなければならない。

解説

紀元前1792年から1750年まで、バビロニアを統治したハンムラビ王が発布した法典が「ハンムラビ法典」です。そこに、このことわざが記され、同等の復讐が規定されています。

法律の解釈はさて置き、目や歯を使ったことわざを探してみたいと思います。目を用いたことわざには、たとえば「目は口ほどに物を言う」があり、目には表情があり、目の表情だけでも気持ちは伝わる、と言っています。目障りで邪魔になるものは、「目の上の瘤」。

「目糞 鼻糞を笑う」は、自分の欠点を棚に上げ、他人の欠点をあざけることのたとえです。他人の小さな欠点ばかり指摘すると、「目くじらを立てる」と注意されることになります。どうでもよい些細なことをむきになって咎めだてする意味です。

「目の正月」は、きれいなものや珍しいものを見て楽しむこと。きれいなもの、珍しいものは「目を皿」にしなくても自然にわかります。

圧倒的に多い目と口のことわざ

ことわざ辞典には、目や口は多いのですが、歯のことわざは意外に少ないようです。言葉を飾ったり、遠慮したりせずに思ったままを率直に言うことを「歯に衣(きぬ)着せぬ」と表現します。「奥歯に衣着せる」は、物事を明瞭に言わずに思わせ振りな言い方のことになります。

数少ない鼻のことわざ「木で鼻をくくる」は、相手に対して不愛想で味もそっけもない態度を取る意味です。最近では、ある政治家の答弁が「木で鼻をくくる」ようだと、批判されています。それは「根も葉もない」批判ではなさそうです。言葉は大切です。

毛髪のことわざは少数ですが、「譬(たと)えに嘘なし、坊主に毛なし」があります。譬えはことわざの旧称。ことわざの言うことに間違いはない、と言っています。「坊主に毛なし」になぞらえて、ことわざの正当性を主張するずるい論法を展開しています。

今の日本では、同等の復讐よりも「倍返し」の復讐が流行のようです。しかし、3700年以上も前のハンムラビ法典には、「強者が弱者を虐げないように、正義が孤児と寡婦とに授けられるように」と記されているそうです。今の日本と太古のバビロニアを比べ、人間味にあふれているのはどちらなのでしょうか。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

この記事に関連するキーワード