メニュー

2020.12.04

豆腐に鎹:手応えがなくても、蛋白質の豊富な豆腐【健康ことわざ#3】

渡辺慎介

記事画像

豆腐に鎹(かすがい)  作者:鍬形蕙斎画「諺画苑」(1808年)など数多い。

意味:①まったく効果がないことのたとえ。②手応えがまるでないことのたとえ。

解説

夏の冷やっこ、冬の湯豆腐、そして四季を通して味噌汁の具にと、様々な形で食卓を飾る食品、それが豆腐です。いかにも消化に悪そうな堅い大豆から、こんなに消化に良い豆腐ができるのは不思議です。さらに、身体をつくるために必要なたんぱく質が豊富に含まれています。

豆腐の特徴は、何といってもその柔らかさにあります。一方の鎹は「コ」の字型の大きな鉄製の釘で、建材の材木同士をつなぎとめます。木造の建物に使われますが、壁に隠れ普段は目にすることはありません。夏の観光地・尾瀬の木道にはあちらこちらで鎹が見掛けられ、材木同士をしっかりとつないでいます。

「子は鎹」は、子どもが夫婦をつなぎとめる役割をするとのことわざです。鎹を柔らかい豆腐に打ち込んでも、崩れるだけで何の役にも立ちません。だから、効果のないたとえなのです。「糠(ぬか)に釘」も同じ意味です。

豆腐の柔らかさを用いたことわざに「豆腐の角に頭をぶつけて死ね」があります。愚か者を罵る言葉です。「豆腐と浮世は柔らかくなければゆかず」もあります。これは、「豆腐と掛けて、浮世と解く、その心は柔らかくなければゆかず」と言い直せば意味は明瞭でしょう。どれも、豆腐の柔らかさを巧みに使うことわざです。

江戸時代に、すでに豆腐の料理本が

江戸時代、味噌は各家庭で作りましたが、豆腐は専門業者が売っていました。豆腐屋の存在は、狂歌「ほととぎす自由自在に聞く里は、酒屋へ三里、豆腐屋へ二里」から明らかです。

また、「豆腐百珍」という、豆腐料理本が江戸時代に発行され、100種類もの豆腐料理が紹介されています。豆腐が原料の「がんもどき」も、ひりゅうず(飛竜頭)の名で「豆腐百珍」に載っています。雁や鴨の肉は旨いものの代名詞として使われ、その雁の肉に似せて作られたから、がんもどきと呼ぶという説もあります。ことわざにも、隣人の貧乏はいい気分だという屈曲した心理を表す「隣の貧乏は雁の味」が残されています。豆腐も雁も旨いのです。

豆腐は長く親しまれた健康食品です。冬は、湯豆腐だけでなく色んな鍋物を楽しむ季節。温かい鍋を囲み、寒さに負けない健康な身体を作りたいものです。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

この記事に関連するキーワード