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2020.12.18

酒は百薬の長:薬にも毒にもなる酒との付き合い方【健康ことわざ#4】

渡辺慎介

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酒は百薬の長  作者:兼好法師「徒然草」。その他にも多数。

意味:適量をたしなむ酒は、どんな優れた薬より効き目がある。

解説

このことわざのどこに適量の意味が隠されているのかよくわかりませんが、酒の効用を高々と宣言しています。適量は、暗黙の了解なのでしょう。これを補う「酒は憂いを掃く玉(たま)箒(ばはき)」のことわざもあります。玉箒は箒(ほうき)の原料となるホウキグサの古語です。酒は心の憂いを取り除くありがたいものだという譬えです。憂いを掃き清める酒は、精神的にも生理的にも、人をくつろいだ気分にさせます。

しかし現実は、「人 酒を呑む、酒 酒を呑む、酒 人を呑む」のことわざのように、ついつい深酒になり、しばしば酒に呑まれてしまいます。そうなると「酒は百毒の長」に成り下がり、やがて身体を壊すことになります。健康の面から言えば、「酒は三献に限る」が伝わっています。三献とは、酒肴を出し三つの杯で一杯ずつ飲ませて膳を下げることを一献といい、それを三度繰り返して三献になります。合計九杯を呑みますが、小さな杯なら、せいぜい一合程度なのでしょう。
 
酒による経済的損失を詠むことわざもあります。「下戸の立てたる蔵もなし」として、酒の呑めない下戸が、酒代がかからないから資産家になった例はない、と強弁します。それでは酒呑みが金を貯め込むのでしょうか。「上戸めでたや丸裸」。酒を呑み過ぎて破産をするのが落ちなのです。つまり、経済的にも健全な酒の呑み方が難しいことを、ことわざは伝えています。

兼好法師も伝えていた酒の益と害

徒然草175段に、百薬の長といわれる酒は、実は万病の元でもあります。酒を呑めば憂いを忘れますが、酔っぱらいは、昔の憂さを思い出して泣くようだ、と兼好法師は書いています。酒の持つ二つの面を簡潔に指摘しています。もっとも、今の憂いと昔の憂さにどれだけの違いがあるのかよくわかりません。単に、泣き上戸をたしなめているだけなのかもしれません。

12月は忘年会など酒を呑む機会が多い時期です。同僚や友人と酒を呑みながら語り合うのは楽しいですね。酒に呑まれずに、酒を呑みたいものです。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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