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2021.02.26

一に看病 二に薬:薬だけに頼るのはいかがなものか?【健康ことわざ#8】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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一に看病 二に薬:太田全斎著「諺苑」(1797年)など

意味:病気を治すには身近な人の看病が一番効き目があり、薬は二の次である。

解説

誰もが健康な生活を送りたいと願います。しかし、仕事による身体の酷使、加齢による体力の衰えは避けることができず、年齢とともに身体のどこかを悪くし、不幸にも寝込んでしまうことさえあります。そんなときには病院を訪ね、薬を処方してもらいます。

このことわざは、病を治すには周囲の人の温かい気づかいと看病がどんな薬よりも効き目があると主張しています。

確かにいやいやの看病や義務感だけの看病は、病の人から回復の希望を失わせます。かと言って、身近な人の気持ちだけに期待をかけるのも看病する人に負担を強いる結果になり兼ねません。しかし、今の世の中、看護師や介護士にも手厚く看護・介護してもらえます。彼(女)らの働きがなければ、病気からの回復は望めないのかもしれません。
 
「病は気から」のことわざも、古くから言い伝えられてきました。これも病と気(気持ち)の関係を述べています。しかしこちらは、周りの人の気持ちではなく、病人自身の気を言っていますから、周囲の人を巻き込みません。自分の病気を悪い方にばかり考えると、治るものも治らなくなります。

気の持ちようで、病気の方が逃げることもあれば、逆に病気を呼び込んでしまうこともあります。病は病として真摯に受け止めながら、一方では「明日は明日の風が吹く」と風向き(病状)に一喜一憂しない方が、治りは早いのかもしれません。

看病や薬以外に手はないのか

ことわざはまた、「薬より養生」と教えています。体調を崩したときは養生が一番と知っていても、忙しい現代人はなかなか休養を取りにくい事情にあります。その結果として、過労死という嫌な言葉が日常的に使われるようになりました。「命あっての物種」ですから、命を第一に考えなければなりません。
 
看病や薬のお蔭で、病気から回復すれば、「病治りて薬忘れる」が常でしょう。恩知らずを戒めることわざです。「熱さ忘れりゃ陰忘れる」も同じ意味に使われます。困難なときに受けた恩を忘れるのは、確かに人として褒められるものではありません。しかし、病気が治れば、あの先生の処方がよかったといつまでも思いめぐらすこともなく、すぐに動き出してしまうのが、人情、人の気持ちなのではないでしょうか。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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