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2020.01.22

分岐鎖アミノ酸(BCAA)と高血圧リスクの関係【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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筋肉増強を目指すアスリートに人気の栄養素、分岐鎖アミノ酸(BCAA)。
摂り過ぎると糖尿病や高血圧のリスクがアップする可能性があるのだそう。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のHypertension誌に掲載された、必須アミノ酸と呼ばれる分岐鎖アミノ酸の血液濃度と、高血圧の発症リスクとの関連を検証した論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

分岐鎖アミノ酸(BCAA)とは?

分岐鎖アミノ酸というのは、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種類の必須アミノ酸の総称で、肝硬変などの肝機能が低下した状態では、その低下が起こって肝性脳症などの原因となるので、分岐鎖アミノ酸の製剤が治療目的で使用されます。

分岐鎖アミノ酸は、タンパク合成促進作用と筋肉のタンパク分解抑制作用があり、身体の筋肉量を維持し増やすために重要な役割を果たしていますが、それに加えて血液中に存在している少量の遊離アミノ酸が、タンパク質や糖質の代謝において、その調節的な役割を果たしていることも、徐々に明らかになってきています。

それでは、分岐鎖アミノ酸が身体に多くあることは、糖尿病や高血圧、心血管疾患などのリスクを、上昇させるのでしょうか、それとも低下させるのでしょうか?

この単純な疑問が、実は未だ解明をされていません。

分岐鎖アミノ酸が体内に多いと糖尿病のリスクは増加

2015年くらいまでの日本語の文献では、ほぼ全てにおいて、分岐鎖アミノ酸の血液濃度が高いと、インスリン抵抗性が改善し、糖尿病も心血管疾患のリスクも低下する、というように記載されています。

ところが、2009年のCell Metabolism誌に掲載された論文では、肥満の人では血液中の分岐鎖アミノ酸が上昇していて、分岐鎖アミノ酸を多く含む食事を与えられたネズミは、インスリン抵抗性が増加して耐糖能異常が生じた、という結果が報告されています。(※2)

つまり、分岐鎖アミノ酸がインスリン抵抗性を増して、メタボを進めるのではないか、ということを示唆する結果です。

その一方で分岐鎖アミノ酸を摂取することにより、インスリン抵抗性が改善したとする、全く相反する結果も報告されていて、どうもこの問題はヤブの中です。

ただ、最近の欧米の研究データは、少なくともインスリン抵抗性については、血液の分岐鎖アミノ酸濃度が高いほど、増加が認められるというものが主流となっています。

血液中の分岐鎖アミノ酸濃度と、高血圧発症リスクの関連は?

今回の研究は分岐鎖アミノ酸の血液濃度と、高血圧の発症との関連を検証したものです。

心血管疾患の予防を検証した疫学データを活用して、4169名の一般住民の血液中の分岐鎖アミノ酸濃度を測定し、中間値で8.6年の観察期間において、新たな高血圧の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、年齢や体格、関連する検査値などを補正した上で、4分割した血液の分岐鎖アミノ酸が最も高い群では、最も低い群と比較して、高血圧の発症リスクが36%(95%CI: 1.11から1.68)有意に増加していました。

分岐鎖アミノ酸が多いと病気リスクに結びつく可能性が

このように、糖尿病と同じように、分岐鎖アミノ酸が高いと高血圧の発症リスクも増加することが、今回の結果では示されていて、分岐鎖アミノ酸が多いと病気にリスクに結び付くという考え方に、より真実味が増しているように思われます。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36