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2019.04.25

過去の病気ではない? 知られざる現状と正しい知識【結核・前編】

KenCoM公式ライター:黒田 創

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皆さんは結核と聞いてどんな印象を持たれるでしょうか。「昔流行った病気でしょ?」「ドラマで見たことがある」「不治の病」そんな方が多いと思います。しかし実のところ、日本は先進国の中でも結核の発症者は高い水準にあるとされており、決して過去の病気ではありません。
2009年には、この度退位される天皇陛下が結核予防全国大会で自身が青年期に結核を患い、投薬治療によって快復した経験談を述べました。また、近年にはお笑いコンビ、ハリセンボンの箕輪はるかさんやタレントのJOYさんが発症しています。こうしたニュースから、いまなお結核が身近に存在する病気であることを実感した方もいるのではないでしょうか。

今回はそんな結核の現状と正しい知識について、東日本唯一の結核高度専門施設である複十字病院(東京)の副院長および結核センター長を務める佐々木結花先生に伺いました。

佐々木結花(ささき・ゆか)先生

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千葉大学卒業後、国立病院機構千葉東病院にて呼吸器内科医として勤務。結核・非結核性抗酸菌および真菌症、気管支拡張症といった疾患を中心に診療に携わる。2012年より公益財団法人結核予防会 複十字病院に着任。現在は副院長、結核センター長および臨床医学研修部長を務める。千葉大学医学部呼吸器内科非常勤講師。

人類とともに歩んできた病気『結核』

結核の歴史と世界の現状

結核は結核菌と呼ばれる細菌が体内に入り、増殖することで引き起こされるエイズ、マラリアと並ぶ三大感染症のひとつです。結核菌は1882年にロベルト・コッホという学者によって発見されましたが、実は、人類との付き合いはかなり長いと言われています。最古の記録では紀元前7千年ころの人骨に結核の痕跡があったことも判明していたり、東アジアでは、中国の5千年前の人骨から結核の痕跡が見つかっていたりと、とても古くから人類を苦しめてきた病気です。

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世界的にみると総人口の約4分の1が結核に感染していると言われています。そう聞くと驚かれるかもしれませんが、感染しても必ず発病するわけではありません。
通常は免疫力によって結核菌の増殖が抑えられていますが、免疫の低下で抑えられなくなると発病に至ります。世界的にみると2016年には1,040万人が新たに結核を発病しており、170万人が亡くなっています。

「世界各国の全結核届出率の年次推移」をみると日本の人口10万人あたりの罹患率は13.9で、アメリカの2.7、イギリスの8.8、オーストラリアの5.7など、欧米諸国と比べると高水準となっています。ちなみに隣の韓国は72、中国は56、シンガポールは44とアジア諸国は全体的に蔓延率が高く、フィリピンは322に跳ね上がるなど、特に発展途上国において顕著です。日本は世界の中では「結核中蔓延国」という位置づけなのです。

結核の症状と感染経路

結核は結核菌により主に肺に炎症が起こるのが特徴で、日本でも約8割は肺結核です。まれに肺以外の臓器が侵されるケースもあり、腎臓やリンパ節、骨、脳など身体のさまざまな部分に影響が及ぶこともあります。これを肺外結核と呼び、結核患者全体の約7%にみられます。

肺結核の初期症状は風邪と似ており、咳や痰、微熱といった症状が2週間以上続くようであれば早めに受診した方がいいでしょう。さらに重症化すると怠さや息切れ、血の混じった痰などが出始めます。
最初は風邪だと思って何の気なしにくしゃみや咳をしていると、結核菌が飛び散り、周囲の人がそれを吸い込むことで空気感染するケースがあります。
しかし先にも述べた通り、結核菌を吸い込んでも必ず発病するわけではなく、ほとんどの場合は免疫によって封じ込まれ、まず発病することはありません。

とはいえ少し厄介なのが、その封じ込まれた結核菌がそのまま死滅せず、肺の中で冬眠状態に入ってしまう点です。そして何らかの原因で免疫力が大きく低下すると、菌が暴れ出してしまう。これが結核の発病パターンです。潜伏期間は1年以上、長いと何十年とも言われており、こうしたことからほとんどの方は「まさか自分が結核に?」となるわけです。

日本における結核の現状と背景

日本では明治時代から昭和20年代にかけての間、結核は「国民病」「亡国病」と恐れられており、昭和25年までは死亡原因の1位でした。
その後適切な治療法が確立されたことや、生活水準の向上によって患者数は減少していますが、現在でも年間約18,000人の方が新しく罹患し、約1,900人の方が亡くなっています。これは1日に50人の患者が発生して5人が命を落としている計算です。

日本において特徴的なのが、発病者の7割近くが高齢者である点です。この年齢層の方々は戦前~終戦直後に結核の感染を受けており、加齢やその他の疾病に伴い免疫力が低下。発病に至っているケースが多いと考えられます。

また、近年顕著なのが外国人の新規結核患者の割合が非常に増えている点で、2016年の外国出生患者は1,338人。20代の新登録患者のうち6割は外国生まれです。
この背景には日本語学校など海外からの留学生の増加があり、罹患率の高い母国で感染し、潜伏期間を経たのちに異国でのストレスや病気などにより発病するパターンが考えられます。さらには人口密集地である大都市での罹患率が高く、判別の難しさから30~50代の働き盛りほど受診が遅れるのも見逃せない点です。

昔の病気ではないという認識が大事

みなさんが想像していたよりも、ずっと罹患率が高かったのではないでしょうか?
海外の方が日本を訪れる機会が増えたり、海外へ出ることも多くなっているだけに、結核はより身近な病気であるという認識が大切になります。
次回は、結核の治療法や予防策についてご紹介していきます。

→結核の症状が出たらどうしたらいい?治療法や予防法を紹介

著者プロフィール

■黒田創(くろだ・そう)
フリーライター。2005年から雑誌『ターザン』に執筆。ほか野球系メディアや健康系ムックの執筆などにも携わる。フルマラソン完走5回。ベストタイムは4時間20分。

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