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2018.12.19

怖い脳卒中は生活改善で予防できるのか?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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脳卒中は遺伝要素の強い病気というイメージがありますが、生活習慣を整えるだけでもある程度の予防は可能なのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、脳卒中の遺伝的リスクと環境要因との関連を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

遺伝と生活習慣、脳卒中に影響を及ぼすのはどちら?

脳卒中のような心血管疾患は、遺伝的な体質と生活習慣などの環境要因が、複合的に関係して発症すると考えられています。

遺伝的な部分については大規模なゲノム解析により、90種類くらいの1塩基変異が、脳卒中の発症リスクと関連している、ということが分かっています。

また、喫煙や高血圧、食事や運動などの生活習慣が、脳卒中のリスクと一定の関連のあることが、これも多くの疫学データからほぼ明らかになっています。

それでは、この遺伝的な体質のリスクと、生活習慣や治療などで改善可能な因子との間には、どのような関係があるのでしょうか?

たとえば、禁煙によるその後の影響にも、遺伝的な素因のあるなしで違いがあるのでしょうか?

そうした点についての疫学的な検証は、これまであまり行われていませんでした。

イギリスの大規模臨床データを用いて検証

遺伝子と生活習慣を調べて、それぞれの脳卒中発症リスクを調査

そこで今回の研究では、イギリスの大規模な臨床データとして有名な、UKバイオバンクの医療データを活用して、この問題の検証を行っています。

対象は登録時に40から73歳の306473名で、脳卒中の発症に関連する90種類の点遺伝子多型(SNP)を解析して、遺伝的な高リスクと低リスクをランク付けし、健康な生活習慣としては、非喫煙、健康な食事、運動習慣、体重の適正管理の4つを、これも良好な生活習慣と、不良な生活習慣にランク付けして、脳卒中の発症との関連を比較しています。

遺伝リスクと生活習慣リスクは、それぞれ独立したリスクだった

中間値で7.1年の観察期間中に、2077件の脳卒中(虚血性梗塞1541件、脳内出血287件、くも膜下出血249件)が発症していて、遺伝的なリスクを3分割した時に、低リスクと比較して高リスク群では、脳卒中の発症リスクは35%(95%CI:1.21から1.50)有意に増加していました。
また、好ましい生活習慣を3から4つ維持している群と比較して、0から1つしか実践していない群では、脳卒中の発症リスクは66%(95%Ci: 1.45から1.89)こちらも有意に増加していました。
そして、この遺伝的リスクと生活習慣の差によるリスクは、互いに関連はなく独立したリスクであることも確認されました。

つまり、生活改善による脳卒中の予防効果は、その人の遺伝的な素因に関わらず、同じように有効である、ということになります。

まずは生活習慣を見直してリスク低下を

今後は遺伝的なリスク因子を調整することも、不可能ではなくなるかも知れませんが、現状はその効果の確実な4つの生活習慣について、改善するのが脳卒中予防のためには、最善の道であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36