メニュー

2017.07.05

片頭痛は、手術後の脳梗塞のリスクを上げる【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

記事画像

人口の5人に1人が発症するといわれる片頭痛。突然痛みが襲ってくることもあり、悩まされている方も多いのではないでしょうか。片頭痛が起きる前には前兆がある方とない方がいるのですが、実はこの前兆の有無に脳梗塞リスクとの関連があるのだそうです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、ブログに執筆、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、片頭痛と術後の脳梗塞のリスクとの関連についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

片頭痛は人口の5分の1が発症するといわれる頭痛

女性に多い病気で、頭の半分がズキズキとする強い痛み

片頭痛というのは、目の前に光がちらつくなどの前兆の後に、頭の半分のズキズキとする強い痛みが、発作的に出現する症状で、脳の一時的な興奮や血管の拡張がその原因であるとされ、特に若年から中年層の女性に多い病気です。

アメリカの疫学データによると、生涯に一般人口の5分の1は片頭痛を発症していて、女性は男性より3から4倍発症しやすいと記載されています。

片頭痛の患者には、脳卒中や心筋梗塞が多い

片頭痛は基本的に良性の病気で、薬剤でコントロールが可能であり、後遺症などは特にないと考えられています。しかし、以前から片頭痛の患者さんにおいて、脳卒中などの心血管疾患が多い、という知見が報告されています。

片頭痛後に脳卒中を来したとすれば、それはそもそも片頭痛ではなく、器質的疾患による頭痛であった、という可能性もあるのですが、脳卒中のみならず心筋梗塞なども増加していて、脳の動脈硬化などの所見とも、明確な関連性は認められないので、単純に誤診のみとは考えられません。

片頭痛持ちの心血管疾患リスクは1.5倍、脳卒中リスクは1.62倍

以前ご紹介した昨年のBritish Medical Journal誌の疫学データ(※2 ※3)では、女性看護師の多数例の分析において、

片頭痛により心血管疾患のリスクは1.5倍(95%CI:1.33から1.69)、
脳卒中のリスクは1.62倍(95%CI:1.37から1.92)、

有意に増加していました。

片頭痛と、手術後の脳梗塞に関連性はあるのか

そもそも心臓や血管の大手術の後には、脳梗塞が発症しやすい

脳梗塞は大きな手術後には発症し易いことが知られています。

上記文献中の記載では、心臓手術などを除いた一般的な手術後にも、1000件の手術に1例は術後30日以内に脳梗塞が起こり、それが心臓や血管の大手術では、0.6から7.4%という高率に起こるというデータがあるようです。

約12万件の手術事例のうち、8.2%に術前の片頭痛があった

それでは、片頭痛とこの手術後の脳梗塞との間には、何か関連があるのでしょうか?

今回の研究ではアメリカのマサチューセッツ総合病院と、その関連病院の2007年から2014年に掛けての手術事例、トータル124558件を解析し、手術後30日以内に起こった脳梗塞と、術前の片頭痛症状との関連を検証しています。

その結果…
術前に片頭痛の診断を受けていたのは、全体の8.2%に当たる10179名で、その8割は女性です。
そのうち閃輝暗点や脱力、しびれなどの前兆を伴うものは、12.6%の1278例で、残りの8901例は前兆を伴わない片頭痛でした。

術後30日以内に全体の0.6%に当たる771名に、脳梗塞が発症していました。

片頭痛持ちが術後脳梗塞になるリスクは1.75倍、前兆がある片頭痛に限ると2.61倍

そして、片頭痛があると、術後脳梗塞のリスクは1.75倍(95%CI:1.39から2.21)、有意に増加していました。更には前兆のある片頭痛に限って解析すると、そのリスクはより高く、2.61倍(95%CI:1.59から4.29)となっていました。

これを絶対リスクで見ると、片頭痛の診断を受けた1000人の患者さんのうち、4.3人(3.2から5.3)に術後脳梗塞が発症し、前兆を伴う片頭痛の限ると、6.3人(3.2から9.5)に増加します。

前兆を伴う片頭痛は、術後脳梗塞の危険因子のひとつ

このように、特に前兆を伴う片頭痛は、手術後の脳梗塞の独立した危険因子になることは、ほぼ間違いのないことだと言えそうです。

問題はこうした前兆のある片頭痛の患者さんの脳梗塞予防を、どのように考えたら良いのか、と言う点にあるのですが、実際にはその点に関する明確な指針のようなものは、現時点では存在はしていないようです。

今後そのメカニズムが解明され、有効な予防法が確立されることを期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36