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2019.02.20

生活習慣の改善で拡大を防止可能?【 知っておきたい脳動脈瘤#2】

KenCoM公式ライター:黒田創

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ある調査結果によると日本人の成人男女の4.3%に見つかっているという脳動脈瘤。放っておくと増大したり、一定の割合で破裂してくも膜下出血を生じる。脳動脈瘤の中には、早期に適切な治療を行わないと高い確率で死に至ったり、重い後遺症が残ってしまうものがあります。
では、検査等で脳動脈瘤が発見された場合、私たちはどうすればいいのでしょうか。今回も幾多の脳外科手術を手掛けたスペシャリスト、昭和大学医学部脳神経外科主任教授の水谷徹先生に伺いました。

脳動脈瘤はどう治す?どう防ぐ?

脳動脈瘤が見つかったら

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脳動脈瘤とひと口に言っても、発生部位や形状、大きさなどそのバリエーションは非常に広く、治療が簡単なものから治療リスクが高いものまで千差万別です。未破裂状態の脳動脈瘤が見つかった場合、治療ガイドラインに則って症例ごとに外科的治療を行うか経過観察するかを考察し、患者さんに提示します。原則として患者さんの余命が10~15年ある場合は、下記の場合において外科的治療を検討します。

①大きさが5~7ミリ以上の未破裂脳動脈瘤
②大きさが5ミリ未満でも症候性の脳動脈瘤だったり、形態的な特徴を持つ場合

つまり一般的に脳動脈瘤の大きさが5ミリ以上、年齢がおよそ70歳以下、さらに手術の妨げとなるような要因がない場合は、外科的治療をおすすめするということになります。
動脈瘤のサイズが10ミリ以上など非常に大きくなっている場合は、いつ破裂してもおかしくない状況ですので強く治療を勧めます。

また、外科的治療を行わなず、経過観察する場合は、喫煙や大量の飲酒を禁止し、高血圧治療を行うのが基本方針となります。

脳動脈瘤の治療法

実際の手術の様子
提供:昭和大学医学部脳神経外科・水谷 徹先生

実際の手術の様子 提供:昭和大学医学部脳神経外科・水谷 徹先生

脳動脈瘤の外科的治療は、クリッピング術と呼ばれる開頭手術と、コイル塞栓術と呼ばれる血管内治療が主流となっています。中でも広く行われているのがクリッピング術です。これは全身麻酔をかけて頭蓋骨の一部を切り開いて脳動脈瘤の根元を金属製のクリップで挟み、動脈瘤の血流を止めてしまう手術で、再発率が極めて少ない根治術であること、多彩な形状の動脈瘤に対応できるといった大きなメリットがあります。一方でけいれんや感染など、開頭手術特有のリスクもあります。

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もうひとつのコイル塞栓術は、手首や脚の血管からカテーテルという細い管を通していき、脳動脈瘤の中に金属製の糸を詰めることで血液が流れ込まないようにする方法です。頭部を切り開かずに治療が行える、多発性の動脈瘤も一度で処理できる、術後のけいれんや感染のデメリットも少ない、さらには局所麻酔でもOKなどさまざまな長所がありますが、術後の脳動脈瘤の再発率が10〜15%と高いのが一番の短所です。

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私は開頭手術を専門に行っていますが、全体的な手術数をみるとクリッピング術は減少傾向、コイル塞栓術は増加傾向にあります。それぞれにメリット、デメリットがありますし、いずれの方法とも、術者の経験や技量が大きくものを言います。
仮に脳動脈瘤が見つかった場合は、信頼できる脳外科医とよく相談のうえ、治療方針を決めていただければと思います。

脳動脈瘤を防ぐには

前回も説明した通り、脳動脈瘤は日本人の約1~6%に発生します。どんなに健康的な生活を送っていても、先天的な要因や脳動脈の構造によって出来てしまうこともあり、その発生メカニズムはわかっていない部分も多いのが現状です。また、無症状で1~2ミリ、3~4ミリとサイズがごく小さな場合は、破裂する可能性は極めて低いため、経過観察にとどめておくケースも多いです。
しかし、仮に発症リスクが少なくても、脳の血管に瘤があるというのは精神的に不安材料であることは間違いありません。

これは脳卒中全般に言えることですが、高血圧や糖尿病、高脂血症といった脳を詰まらせたり動脈を傷つけるような危険因子をできるだけ減らすのがいいでしょう。
具体的には食塩の過剰摂取や高カロリー食、高コレステロール食、大量飲酒を避けると同時に、喫煙習慣や睡眠不足、ストレスの多い生活を見直すことが必要となってきます。
そのうえで、40歳を過ぎたら出来るだけ脳ドックを受診するなどしてください。脳動脈瘤は発見後の対処方法が一番のカギになってきますので、早期発見に越したことはありません。

検査と食事、生活習慣への注意で脳動脈瘤に対処を

どうしてできるのかまだはっきりわかっていない脳動脈瘤ですが、破裂のリスクは食生活、高血圧や禁煙に気をつけることで低減されることがわかっています。
まずは生活習慣を整え、40歳を超えたら、定期的なチェックを行うように心がけましょう。

なかなか身近とは言い難い脳動脈瘤ですが、少しでもリスクを減らせるといいですね。

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水谷 徹(みずたに・とおる)先生

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昭和大学医学部脳神経外科主任教授。東京大学医学部卒業後、1986年に同大学脳神経外科入局 。東京都立多摩総合医療センター部長を経て2012年から現職。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳外科手術における症例数は世界でもトップレベル。脳外科手術の世界的スペシャリストと呼ばれている。

著者プロフィール

■黒田創(くろだ・そう)
フリーライター。2005年から雑誌『ターザン』に執筆。ほか野球系メディアや健康系ムックの執筆などにも携わる。フルマラソン完走5回。ベストタイムは4時間20分。