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2016.12.02

【津下先生のメタボの本質⑫:突然死のリスク】運動による突然死を防ぐには

津下一代

頻度は高くないものの、激しい運動の最中に突然にして倒れ、死にいたってしまうケースがあります。予め原因となる疾患や、突然死が起こりやすいシチュエーションを知っておくことが大切です。

糖尿病・肥満を専門とし、厚生労働省における「標準的な健診・保健指導プログラム」や「運動指針」等の策定にも携わる、あいち健康の森健康科学総合センター・センター長 津下一代先生が、メタボに悩むあなたに知ってほしい基礎知識をわかりやすくご紹介する連載記事です。

運動中に起こる突然死

十数年前のマスターズ水泳大会でのこと。200mを全力で泳いだ50歳代後半の男性が、プールサイドに上がったとたん、意識を失って倒れました。待機していた救護班が心電図をとると心室細動、つまり心停止の一歩手前でした。幸い、救急対応が迅速に行なわれ、一命をとりとめました。

2007年には、駅に向かって自転車を全力でこいでいた30歳代の男性が転倒。病院に搬送時には心室細動でしたが、心停止に至りました。

ゴルフプレー中の60歳代の男性。昼食時にビールを飲んだ後にラウンド、胸痛のため緊急入院しましたが、心筋梗塞のため死亡。

このような運動中の突然死や急性心筋梗塞の発症頻度は、実はそれほど高いものではありませんが、極力回避すべき事態です。

2007年に東京医科大学の救命救急センターに搬送された心停止事例458名のうち、風呂、トイレ、食事中など自宅で非運動時に発症した人が176例(38%)、仕事中や路上などなんらかの身体活動中と考えられる人が47例(10%)でしたが、明らかに運動中という人はこの自転車とゴルフの2例でした。

原因となる疾患は?メタボの方も注意して

運動中の突然死の原因疾患をみると、若年者では肥大型心筋症や不整脈、先天性心疾患、心臓震盪(しんとう)等が多くを占めますが、40歳以上では虚血性心疾患や脳卒中が主要な原因です。メタボリックシンドロームでは、肥満の上に高血糖、高血圧、脂質異常などのリスクを重ねもつため、心血管事故防止には十分な配慮が必要です。

どんなときに発症しているの?

世界中の論文を調べてみてみますと、中高年における心血管事故の多くは6メッツ以上の運動で多く発症しています。6メッツとは、「安静時の6倍の酸素が必要な運動」ということで、ジョギング、エアロビクス、高強度のウエイトトレーニング、水泳などの「きつめ」の運動が相当します。

運動中は心拍数や心拍出量が増加するため、心臓は安静時の数倍の酸素を要求します。潜在的に冠動脈(心臓に酸素を送る血管)の動脈硬化が進んでいる場合には、運動によって心筋が酸素不足に陥り、狭心症を誘発する可能性があります。また、運動中は発汗量が多く脱水傾向になり、血液が濃縮して脳梗塞の引き金になることもあるのです。
 
このような心血管事故が起こった背景をみると、体調が悪くても無理に運動を続けたケースや、暑熱下でランニングなど運動強度の高い運動をした、飲酒後にゴルフをしたなどの状況があり、未然に回避できたと考えられる事例が少なくありません。また、日ごろ運動習慣がない人が、高強度の運動をしたときに発症しやすいことも報告されています。

メタボ対策で運動を始められる方に

運動による効果・利益は、身体的にも心理的にも経済的にも非常に大きいことが証明されています。しかし、運動の方法や体調管理を誤ると、副作用がでる危険性もあるのです。

メタボ対策として運動を始める場合、
1)健診等のメディカルチェックで自分の健康状態を把握し、健康状態にあった運動をおこなうこと
2)これまで運動習慣のない人では、まずはウォーキング程度の低強度の運動からはじめ体調をみながら徐々に増やしていくこと
3)「気持ちいいなあ!」と感じるペースの運動を楽しむこと

の三つを心に留めておいてください。

著者プロフィール

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■津下一代(つした・かずよ):
あいち健康の森健康科学総合センターセンター長兼あいち介護予防支援センター長(現職)。
医学博士、日本糖尿病学会専門医・糖尿病療養指導医、日本体育協会公認スポーツドクターなどの資格をもち、糖尿病、肥満、スポーツ医学の専門医として活躍。日本肥満学会理事、日本人間ドック学会理事、厚生労働省にて日本健康会議実行委員会委員をつとめ、「標準的な健診・保健指導プログラム」や「運動指針」等の策定に携わる。主な著書に「しなやか血管いきいき血液―健康寿命をのばすために知っておきたい65のはなし」「図解 相手の心に届く保健指導のコツ―行動変容につながる生活習慣改善支援10のポイント」など。その他、「NHKきょうの健康 コレステロール・中性脂肪対策のごちそう術」の監修も務める。

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