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2023.08.08

心筋梗塞後にLDLコレステロールが低いのは良いこと?悪いこと?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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一般的にLDLコレステロールは低い方がいいとされていますが、心筋梗塞後にLDLコレステロールが低いと生命予後が悪くなると言う説があります。これは本当でしょうか?

今回ご紹介するのは、Journal of Internal Medicine誌に、2023年5月31日ウェブ掲載された、LDL-Cパラドックスについての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

心筋梗塞後にLDLコレステロールが低いと生命予後が悪化する?

悪玉コレステロールと通称されている、LDLコレステロールが血液中で高値であると、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患のリスクが高まることは、多くの精度の高い疫学研究で確認されている事実で、心筋梗塞を起こした患者さんに対して、コレステロール降下療法を適切に施行すると、その再発リスクが低下することも、また多くの精度の高い臨床試験で確認されています。

ここまでは問題ありません。

しかし、これまでの複数の観察研究のデータでは、急性心筋梗塞などの急性冠症候群を発症した患者さんにおいて、LDLコレステロールが低いほど、その後の死亡リスクが高く合併症も多いという知見が得られています。

つまり、LDLコレステロールが低いことは良いことの筈なのに、むしろ予後が悪いというデータになっているのです。

これを「LDL-C(LDLコレステロール)パラドックス」と呼ぶことがあります。

心筋梗塞後のLDLコレステロール値と生命予後を調査

今回の研究はスウェーデンにおいて、初発の心筋梗塞で入院した18歳以上の患者のうち、コレステロール降下療法を施行していなかった、トータル63168名の予後を、血液中のLDLコレステロール値毎に比較検証しています。

患者の年齢の中央値は66歳で、LDLコレステロール濃度の中央値は116mg/dLでした。LDLが低いほど患者の年齢は高く、合併疾患も多い傾向が見られました。中間値で4.5年の観察期間中に、10236名が死亡し、4973名は心筋梗塞を再発していました。

ここでLDLが約140mg/dL以上と最も高い群は、約93mg/dL以下と最も低い群と比較して、死亡リスクが25%(95%CI:0.71から0.80)有意に低下していました。

また、肺炎や大腿骨頸部骨折、COPD、新規の癌で入院するリスクも、LDLが高いほど低くなっていました。

一方で心筋梗塞の再発のリスクは、LDLが高い群は低い群と比較して、1.16倍(95%CI:1.07から1.26)と有意に増加していました。

このように、今回の大規模な疫学データにおいても、急性心筋梗塞後のコレステロール降下療法未施行の患者では、LDLコレステロールが低いほど、その予後が悪いという結果が得られました。

他の疾患が関係している可能性も

ただ、実際にはLDLコレステロールの低い患者は、栄養状態が悪い可能性が高く、心臓以外の疾患を併発していることで、その生命予後が悪化しているという可能性が示唆されました。

つまり、LDLコレステロールが低い状態で心筋梗塞を発症した患者は、コレステロール以外の原因で病気が発症した可能性が高く、そのため原因とコレステロールとは無関係で、その低値は全身状態の悪化を表現しているのではないか、という仮説です。

コレステロールが低い患者には別のアプローチを

従って、コレステロールが高値で心筋梗塞を発症したような患者においては、コレステロールの管理が重要ですが、コレステロールが低値で発症したような患者では、別のアプローチが必要と考えられるのです。

LDL-Cパラドックスは、どうやらパラドックスと捉える必要はなさそうです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36