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2020.03.20

ダイアモンド・プリンセス号の集団感染は封じ込められたのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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大型クルーズ船ダイアモンド・プリンセス号で、新型コロナウイルスの感染者がでたというニュースは記憶に新しいところだと思います。
乗客は14日間船内で隔離措置を受けていましたが、この措置は感染の封じ込めに役立ったのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2020年2月28日のJournal of Travel Medicine誌にウェブ掲載された、先日全乗員乗客の下船が終了した、ダイアモンド・プリンセス号でのCOVID-19のアウトブレイクが、収束した経緯を、疫学的にまとめた論文です。
(ダイヤモンドかダイアモンドか、というのはまちまちなのですが、感染研でダイアモンドと記載されているので、今回はダイアモンドとしています。「ダイヤ」って変ですよね)

▼石原先生のブログはこちら

ダイアモンド・プリンセス号の集団感染は、封じ込めることができたのか?

2020年の2月3日にクルーズ船ダイアモンド・プリンセスにて、船内に10名の新型コロナウイルス感染者が確認されました。
これがアウトブレイクの発端となり、2月19日の時点で3700名(論文中の記載です)の乗客乗員のうち、17%に当たる619名の感染が確認されるまでに広がりました。
1月25日に香港で下船した乗客が、その起点であったことがほぼ明らかになっています。
1月31日に横浜港に接岸し、症状のある乗員乗客にはPCR検査を施行して、新型コロナウイルス遺伝子が陽性となった患者は、日本国内の病院に移送して治療。症状のない乗員乗客は14日間船内で隔離する、という措置が取られました。

その後も紆余曲折があり、現場の混乱や二次感染など、多くの問題を孕みながらも、漸く3月1日に全ての乗員乗客は船を離れ、まだ、下船者からの感染者など、問題が全て解決した訳ではありませんが、ダイアモンド・プリンセス号のアウトブレイク(これは論文での記載です)は、ほぼ終息を迎えることになったのです。

横浜港に接岸して患者の振り分けを行ってから、感染は劇的に低下

今回の論文では、主に船内患者発生からのタイムラインで、どのように感染が広がり終息したかを、疫学的に解析しています。
基本的には感染症研究所が会見で発表した、データが元になっていると思われますが、論文の執筆者はヨーロッパの研究者になっています。
日本人の名前は1つもありません。
何故このような形での論文化となったのかは、よく分かりません。

それではこちらをご覧ください。

これは横軸が時間軸で、縦軸は基礎再生産数(R0)を示しています。

R0というのは、その時点で1人の患者が何人に感染を広げるのかを、示す数値です。

中国でまとめられた疫学データによれば、その感染拡大初期におけるR0は、2.2と算出されています。その後は3を超えているという推測もあります。

この数値が1を上回っている限り感染は拡大します。

従って、感染を封じ込めるためには、感染者を隔離するなどして、この数値を1に近づけ、それより低下させる、という必要がある訳です。

このグラフを見ると、当初のR0は14.8と算出されています。
1人から15人近くに感染するということですから、かなり深刻な状態であったことが分かります。
空気があまり動かない場所で、数千人の人間が接触しつつ暮らすという環境では、こうした感染の広がりを見せるのです。

それが横浜港に接岸して、患者の振り分けと船内隔離などの対策が取られてから、1週間後くらいに劇的に低下しています。
計算上R0は1.78程度まで低下し、その後はその水準で推移しています。
1を切ってはいないので、何もしなかれば再び感染は拡大する訳ですが、通常の感染対策を行なっていれば、感染はそれほど拡大することなく、トータルには終息に向かうのです。

一貫した対応で、基本的には感染を封じ込められたと言える

1人の患者が発病してから、感染した次の患者が発病するまで、中国での初期のデータでは平均7.5日と計算されていますから、概ねその期間で感染拡大が阻止されたということは、基本的には感染対策が奏功したことを、示していると思われます。

指摘されているように、船内の感染対策には多くの問題があり、多くの混乱やミスもあった訳ですが、それでも一貫した対応を取ることにより、感染の封じ込めは可能であることを、今回のケースは示しているように思います。

新型コロナウイルス感染症を正しく怖がる、というのはおそらくそうした意味であると思います。
今の対策の効果、皆さんが日々気を付けていることの効果は、概ね1週間程度で形となって現れるのですが、それは後から計算した場合の話で、実感としてそれが感じられるのは、おそらく1か月程度は経ってからのことではないかと思います。

矢張り今を正念場と考え、出来ることを積み重ねるしかないと、個人的にはそう考えています。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36