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2023.05.24

心筋梗塞は実は助かる病気。そのためには早期発見がカギ!

kencom公式ライター:白石弓夏

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日本人の死因の第2位を占める心疾患。心疾患の中でも心筋梗塞が、突然死の原因と言われています。死因1位はがんで、この順位は30年近く変わっていません。そして死因の第2位の心疾患は、ここ数年徐々に死亡率が増加傾向にあります。

そもそも心筋梗塞とはどのような病気なのか、どのような原因や治療方法があるのか、どこまで予防することができるのか。国際医療福祉大学大学院医学研究科(循環器内科学)、同大学福岡保健医療部で教授を務める岸拓弥先生に、心筋梗塞の現状や症状、診断方法についてお話を伺いました。

岸拓弥(きし・たくや)先生

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国際医療福祉大学大学院医学研究科循環器内科学・福岡薬学部教授
心不全と高血圧を専門とする循環器内科医として幅広く診療を行いながら、循環生理学や脳による多臓器連関生体恒常性の基礎研究では世界をリードする一人。循環器関連国内主要学会の評議員ならびに米国心臓協会・欧州心臓病学会のフェローであり、日本循環器協会では理事を務めている。また、Social Networking Serviceを活用した医学系学会の情報発信先駆けとして注目されている日本循環器学会情報広報部会長であり、多くの学会でも広報に携わっている。Twitterでは猫好き循環器内科医として知られている。

心筋梗塞の前に心疾患を知っておこう

心疾患(しんしっかん)とは、心臓の構造や動きに異常がある心臓病の総称で、様々な種類があります。

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今回のテーマである心筋梗塞は、虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)に含まれます。日々の生活習慣による影響が大きいといわれており、加えて突然死の最大の原因が心筋梗塞です。

心筋梗塞と狭心症の違いは?

虚血性心疾患である心筋梗塞と狭心症の違いは以下の通りです。

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・狭心症:血管が狭くなっている
冠動脈が狭くなることで心臓の筋肉への血流は著しく低下しますが、心臓の筋肉が壊死するまでは陥っていない状態。

・心筋梗塞:血管が詰まっている
心臓の筋肉に酸素と栄養素を送る血管(冠動脈)の血流が急に完全に止まってしまい、その血管の先にある心臓の筋肉が壊死に陥ってしまう状態。壊死した心筋細胞は元には戻らないため、早期の治療が大切になってきます。

心筋梗塞の原因は動脈硬化

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心筋梗塞の原因は、ずばり動脈硬化です。動脈硬化は、血管が弾力性を失い硬くなる状態で、わかりやすくいうと血管の老化です。

LDL(悪玉)コレステロールが血液中に増えすぎた状態で血管の内側が傷つくと、血管の壁の隙間からコレステロールが入り込んで、塊がコブのようになることをプラークといいます。これが破裂すると血の塊(血栓)ができて血管内を塞いでしまいます。それにより、心臓の筋肉への血流が止まり、20〜30分で壊死しはじめ、元に戻らない状態となります。

動脈硬化になる原因は、
・生活習慣病(高血圧や糖尿病、高脂血症、肥満など)がある
・喫煙
・ストレス
・遺伝的要因
の影響があります。

稀に、高血圧ではない方で心筋梗塞を発症するケースがありますが、調べてみると実は高血圧だったという方がほとんど。血圧は、測定時のその一点のみを数値化しているだけなので、血圧の異常がわかりにくいケースがあるのです。

心筋梗塞は男性の方が多く発症しますが、女性でも50代前後の女性ホルモン(特にエストロゲン)の不安定な時期には、中性脂肪や血管に影響が出ることがわかっています。更年期の女性で胸の痛みを訴えるケースは慎重に対応する必要があります。

これって心筋梗塞?気をつけるべき5つのこと

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今まで感じたことのない胸の締め付けられるような痛み、圧迫感を感じたら心筋梗塞を疑いましょう。その状態が安静にしていてもおさまらず、息苦しさや冷や汗(脂汗)、吐き気、顔面蒼白、動悸やめまい、意識が飛ぶなどの症状を訴えることもあります。

狭心症の場合は5〜10分で症状が落ち着きますが、心筋梗塞では15分以上続きます。

胸以外の痛みにも注意!

放散痛(ほうさんつう)と呼ばれる、胸以外に痛みが生じるケースがあります。歯や顎の痛み、肩から腕にかけての痛みを訴えることもあり、発見が遅れることも。年齢のせいだと思わず、少しでも気になる痛みは医療機関を受診してください。

気をつけるべき時間やシーンがある

冬場の室内と室外の急激な温度差、運動中、心理的ストレスなどがきっかけで起こりやすくなります。また、起床した直後は急激に血圧が上がることがあるため、心筋梗塞を起こりやすいことが知られています。

糖尿病の方や高齢者は痛みを感じにくい

心筋梗塞が怖いのは、こうした徴候なしに発症することです。特に、糖尿病がある方や高齢の方の場合は、はっきりとした症状が出ないことがあります。糖尿病がある方は神経障害という痛みに鈍くなる障害があるため徴候に気付きにくいのです。

また、高齢の方は、心筋梗塞だと気がつかずにだるさなどの不調を訴えることもあります。

狭心症の症状にも注意が必要

狭心症には、心筋梗塞につながるものがあります。

・労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)
運動することによって、心臓の筋肉は安静時よりも血流が必要になりますが、冠動脈が狭くなっている状態では十分な血流を供給できず、心臓の筋肉に虚血が生じて、胸が痛む、息苦しさが出るなどの発作が起きます。しかし、しばらく休むと症状がおさまる、"これぐらい動くと胸が痛くなる"のレベルが明確である(階段を3階まで上がる、あのバス停まで歩くなど)のが特徴です。

・冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)
普段は狭くならない冠動脈が、何らかの誘因によって急激な痙攣を生じ、冠動脈が狭くなることで胸が痛くなります。運動とは無関係で、安静時でも特に朝方に起こりやすい、喫煙者に多いという特徴があります。労作性狭心症とは異なり、安静にしていても冠動脈の攣縮は解除されないため、心臓の虚血が長引いて突然死の原因となることがあります。

・不安定狭心症
心筋梗塞の前段階ともいわれ、プラークが破れやすい不安定な状況にあり、冠動脈の完全閉塞に陥りやすい状態をさします。

この3つの中で一番心筋梗塞のリスクが高いのが不安定狭心症です。

具体的な例をあげると、階段で2階までは上がれるけど、3階は苦しくなる、少し休むと落ち着くといった症状から、だんだんと2階も上がるのがしんどくなってきた、休んでも症状が治まらないとなると危険です。すぐに入院して治療を始めることが重要です。

ここまで述べましたが、胸の痛みや息苦しさなどの症状を訴えるケースがほとんどです。また健康診断において要精密検査で引っかかっていたのに、受診していなかったなどがあると、徴候を見逃すリスクがあがるため、日頃からの自己管理と体の変化に気づくことが重要です。

心筋梗塞の診断方法

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心筋梗塞の診断には、さまざまな検査がありますが、入り口となる問診が重要です。
・胸が痛いのはどこがどのように痛むのか
・どういうときに痛みが出るのか
・どのくらいの距離を歩けるか
・階段は何階まで上がれるか
など、しっかりと具体的に聞くことからです。

その後、一般的には、心電図や血液検査(心筋マーカー)、胸部レントゲンや造影CT、心エコー(心臓超音波)などで診断確定、重症度を評価する検査を行います。

さらに治療を視野に置いた詳しい検査としては、冠動脈造影検査という腕や手首、脚の血管からカテーテルを挿入する検査を行います。状態によっては、そのまま病変の治療を行うこともあります。

検査の内容によっては、検査結果にタイムラグが生じて正しい結果が出ない場合があるため、症状と心電図や採血、心エコーなどの検査をトータルにみて判断しないといけません。

心筋梗塞は減少傾向にある

突然死の原因とされる心筋梗塞ですが、以前は重症化する患者をどのようにして助けるかが大きな課題でした。しかしここ20〜30年では早期に治療が行えることで助かるケースが増えてきています。

それは、日本の救急医療体制が整っている点と治療のガイドラインが確立されているため。

ガイドラインでは、救急車を呼び、病院に到着してから詰まっていた血管の治療を開始するまで時間が30分以内、そして血流が再開するまでが90分以内を目標と設定されており、世界的にみても日本は短い時間で治療を行うことができているのです。

また、以前に比べて私たち自身の健康意識の変化や生活習慣の改善、早期発見と早期治療、重症化予防の薬や医療機器の進化、健診の推進なども大きく影響していると考えられます。

こうしたことから、亡くなる方は徐々に減少傾向にありますが、しかし一度でも心筋梗塞を起こすと、生活は一変して薬を長く飲み続けることとなり、生活習慣の見直しなども大変になります。さらに心筋梗塞は、1度ならず2度、3度と引き起こされることのある病気。当然、致死率は高くなり、予後も悪くなります。加えて、心臓のポンプ機能低下により、腎臓や肝臓にも影響が出て、動脈硬化が原因で脳梗塞を起こすリスクが高まったりと、ガタガタと身体機能が落ちていくこととなります。

そのため大切なことは、
・心筋梗塞を起こさないための生活習慣
・発症してしまったら、1回目で食い止めるための治療と生活習慣の改善
が重要になってきます。

また、心筋梗塞は突然起こる病気なので、余命〇か月と予後予測ができませんが、他の病気と比べて、実はほぼ防げる病気!しかも保険診療の薬で予防ができます。

手遅れになる前に、些細な変化でも受診を

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心筋梗塞の様々な症状があるため、「病院に来たけれども心筋梗塞ではなかった」ということも少なくありません。それでも、手遅れになるよりは「受診してよかった」となるほうがいいでしょう。

このくらいの症状で受診していいのかなとあれこれ考えすぎずに、これまでなかったような胸の痛みや息苦しさがある場合には、翌日受診しようなんて思わずに、早めに医療機関を受診してください。

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引用・参考文献

著者プロフィール

白石弓夏(しらいし・ゆみか)
看護師・フリーライター
1986年生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟勤務中。

制作

監修:岸拓弥
取材・文:白石弓夏

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