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2023.05.31

心筋梗塞は予防できる!習慣化したい4つのことは?

kencom公式ライター:白石弓夏

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日本人の死因の第2位を占める心疾患。心疾患の中でも心筋梗塞が、突然死の原因と言われています。死因1位はがんで、この順位は30年近く変わっていません。そして死因の第2位の心疾患は、ここ数年徐々に死亡率が増加傾向にあります。

国際医療福祉大学大学院医学研究科(循環器内科学)、同大学福岡保健医療部で教授を務めている岸拓弥先生に、心筋梗塞についてお話を伺いました。

岸拓弥(きし・たくや)先生

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国際医療福祉大学大学院医学研究科循環器内科学・福岡薬学部教授
心不全と高血圧を専門とする循環器内科医として幅広く診療を行いながら、循環生理学や脳による多臓器連関生体恒常性の基礎研究では世界をリードする一人。循環器関連国内主要学会の評議員ならびに米国心臓協会・欧州心臓病学会のフェローであり、日本循環器協会では理事を務めている。また、Social Networking Serviceを活用した医学系学会の情報発信先駆けとして注目されている日本循環器学会情報広報部会長であり、多くの学会でも広報に携わっている。Twitteでは猫好き循環器内科医として知られている。

心筋梗塞の治療法は?

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心筋梗塞発症のリスクが高い場合

心筋梗塞の発症リスクが高い方には、薬物療法をメインに治療を行います。

高血圧がある場合には、血圧を下げる降圧薬を、糖尿病がある場合にはインスリン分泌を促して血糖値を下げる薬を、LDLコレステロールが高い場合には血中のコレステロールを下げる薬を処方します。ほかにも、煙草を控え、運動を促すなどの生活習慣の見直しを行うことが基本的な対応です。

心筋梗塞と診断された場合

薬物療法や経皮的冠動脈インターベンション・外科手術、心臓リハビリテーションなどがあります。

薬物療法

薬物療法では、急性期には血栓溶解療法という文字通り血栓や塞栓を溶解する薬を使うこともありますが、心筋梗塞を繰り返し起こさないために、
・動脈硬化の進展を抑える抗血小板薬
・血圧を適正にコントロールする降圧薬
・悪玉コレステロールを低下させる薬
・心臓の機能が低下していくのを少しでも防ぐための薬
を用います。これらはすべて、有効性のエビデンスがあり、ガイドラインで推奨されているものです。

経皮的冠動脈インターベンションと外科手術

経皮的冠動脈インターベンションは、冠動脈の細くなっている部分にカテーテルと呼ばれる細長い管を通して、血管を押し拡げ、血流を取り戻す治療です。まず、腕や手首、脚の付け根の動脈にカテーテルを通し、冠動脈を造影して狭窄や閉塞部位を評価する検査(心臓カテーテル検査)を行います。

その後、狭窄・閉塞部位をバルーンで拡張する治療や、ステントと言われる金属の網を筒状にしたものを狭窄・閉塞部位に留置して十分に拡張する治療、血栓を吸引する治療を行うことがあります。

カテーテル治療が困難な患者さんには、全身麻酔(局所麻酔の場合もあり)で冠動脈バイパス手術(CABG)という、胸や脚から採取した動脈や静脈を、大動脈から冠動脈の狭窄・閉塞部位の先に繋ぐ手術です。この手術は胸の前面を大きく切開する方法と近年では小切開、内視鏡ロボット手術などで行うこともあります。

また、心臓を完全に停止させ人工心肺につなぐ手術だけでなく、状況によっては心臓が動いた状態のままで行うことも可能になってきました。経皮的冠動脈インターベンション治療は循環器内科の領域ですが、冠動脈バイパス手術の場合には心臓血管外科の対応になるため、連携して治療を進めていきます。

心臓リハビリテーション

薬物治療や手術と並行して、再発予防のために心臓リハビリテーションという生活指導や栄養指導、内服指導、禁煙指導、運動指導、カウンセリングなどを行っていきます。

こうした治療法は全て、日本循環器学会のガイドラインにおいて、どのような場合にどのような治療がそれぐらいの根拠で推奨されるか明確に記載されているため、循環器疾患の診療をおこなっている病院で循環器専門医は原則ガイドラインにしたがって治療を行います。このガイドラインは、学会や医療従事者だけのものではありません。日本循環器学会のホームページで無料公開しており、どなたでも閲覧できるためぜひチェックしてみてください。

心筋梗塞にならないためには?今からできる4つの予防法

心筋梗塞は、生活習慣の改善で予防できる病気です。

脂っこい食事や糖質の過剰摂取は控えて

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特に食生活では、脂肪分の多い食事は避けましょう。炭水化物などの糖質を過剰に摂ると、中性脂肪が増えるため、脂質異常症や糖尿病の原因になります。

お肉や乳製品に多い動物性脂肪や油で、飽和脂肪酸を取りすぎるとLDL(悪玉)コレステロールが増えます。野菜や魚介類、海藻、大豆などの食事をこまめに取り入れるといいでしょう。青魚に含まれるDHAやEPAなどの栄養素には血栓予防にも繋がります。

塩分は1日6g未満を目標に

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日本人の食事摂取基準(2020年版)の塩分目標値は、男性7.5g未満、女性6.5g未満ですが、日本人の食塩摂取量の平均値10.1gとかなりオーバーしています。減塩は難しいと感じるかもしれませんが、予防のためには高血圧治療ガイドラインに準じた6gを目標にしましょう。

食事のポイントは調味料を“かける”のではなく、“つける”ことで、塩分量を減らすことができます。調味料を減塩タイプに切り替えるのもよいでしょう。

もう1つは、塩分が多いものと少ないものを見分けられるようになること!日持ちする加工肉や加工食品=塩分が多い、と覚えておきましょう。毎日がんばろうとしても続かないため、私は患者さんに「火木土はお好きにどうぞ」「月水金日はがんばりましょう」と伝えています。

食生活は長年の習慣があるため、大人になってから慣れ親しんだ味を変えることは非常にハードルが高いと思います。理想は、小学生くらいから生活習慣病の予防ができること。

心筋梗塞は遺伝でないにもかかわらず家族内発症が多いのは、家族と同じ好みのものを長年食べ続けていることが考えられます。全世代で生活習慣病の予防ができるよう、普段から減塩意識を少しずつ高めていきましょう。

1日30分歩こう!

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食事だけではなく、適度な運動も大切です。たとえば、1週間で180分、少なくとも150分は歩くことがガイドラインで推奨されていますが、1日だと20〜30分となります。週末にまとめて運動するよりは、毎日10〜15分歩いて買い物をする、出勤するなど、そうしたことを1週間に5日以上できるといいでしょう。

そして最初から100点満点を目指して1ヵ月頑張るよりも、まずは60点でよいので継続させることが重要です。歩数は人によって歩幅もスピードも違うため、時間で考えるのがおすすめです。最終的には、歩く時間も意識しないほど、歩くことが当たり前になるのがベストです。

実は私自身、ものすごく歩きます。1時間は徒歩圏内だと思っています。

注意すべきことは、歩いた後にコンビニやスーパーに立ち寄らないこと。ご褒美におやつやビールを買おう…という気持ちをぐっと堪えてください。

毎朝、血圧測定しよう

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日頃の血圧測定と健康診断も大切です。健康診断の細かな数値は医師に任せ、どのような結果とコメントがあるかをチェックし、必要であればきちんと再検査をするという当たり前のことを心がけてください。

また、血圧は歩いたり入浴後などは変動するため、朝起きてトイレに行った後、朝食をとる前が一番影響が少ないといわれています。これも数値を細かく気にするのではなく、まずは血圧を測ること、自分の血圧と向き合うことが大事です。

自分の体に興味を持ち、食事や運動など生活習慣を改善していくことを楽しんでみてください。予測ツールを使ってみるのもよいでしょう。体重が減る、数値がよくなるなど成功体験を掴んでいくと、人間は維持したくなり、その後はがんばろうとせずともよい生活習慣が当たり前となるはずです。

進化する薬や機器。シールや声で血圧が測れる未来がすぐそこに!?

血液中の過剰な糖の再吸収を減らし、尿糖として出すことで血糖値を下げるSGLT2阻害薬など、循環器領域でも使える薬も新しいものが出てきていますが、血圧を測る機器も進化しています。

これまでのように腕や手首に巻くものだけでなく、画像や音声などから血圧を推定する技術開発も進んでいます。血圧は、測定時のその一点のみを数値化しているだけなので、こうした非接触型で連続血圧が測れるようになる、無意識の状態でのビックデータ化が重要で、そうした未来はすぐそこまでやってきています。

生活習慣を見直せば人生はもっと豊かになる!

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心筋梗塞を始め、生活習慣病の予防は、保険診療でできることがたくさんあります。もし体の変化を感じたら、まずはあれこれ悩まずに、気軽に受診してください。

生活習慣を改善すると、楽しいことも増えると思います。楽しみながら健康に、そして人生をより豊かに過ごす人がふえていけばいいですね。心筋梗塞は日頃の生活習慣が非常に重要ですので、今後は大人だけでなく子どもの頃から予防について取り組んでいける環境作りが必要です。

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引用・参考文献

著者プロフィール

白石弓夏(しらいし・ゆみか)
看護師・フリーライター
1986年生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟勤務中。

制作

監修:岸拓弥
取材・文:白石弓夏

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