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2019.03.21

突然死も!?日常に潜む心臓への負担【心筋梗塞・前編】

KenCoM公式ライター:松本まや

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がん、脳梗塞やくも膜下出血などの脳血管疾患と並び、日本人の三大死因の1つとされる「虚血性心臓疾患」。その中でも「急性心筋梗塞症」は国内で年間約15万人が発症し、約3割が死亡していると言われています。最近では、「愛のむきだし」などで知られる園子温監督が緊急入院するなど、世間的にも注目を浴びています。
生活習慣病の一種としても知られる心筋梗塞ですが、そもそもどのような病気なのでしょうか。その原因について東京大学医学部附属病院の稲島司先生に教えていただきました。

稲島司(いなじま・つかさ)先生

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東京大学医学部附属病院 地域医療連携部助教 医学博士
2003年東京医科大学医学部を卒業。2008年東京大学大学院医学系研究科を修了。循環器内科の専門診療のほか、外来診療を中心に生活習慣病の予防・改善に携わる。東京大学医学部附属病院では地域医療連携部の専任医師として地域医療機関や介護・福祉施設との連携を推進。論文を中心とした医学エビデンスを紹介しながらの説得力のある講演や著作は人気を博している。循環器専門医、総合内科専門医、認定産業医、認定健康スポーツ医。
著作に『世界の研究者が警鐘を鳴らす 「健康に良い」はウソだらけ 科学的根拠(エビデンス)が解き明かす真実』(新星出版社刊)、『血管を強くする歩き方: パワーハウス筋が健康を決める』(木津 直昭との共著・東洋経済新報社刊)などがある

心筋梗塞ってどんな病気?

心臓の血管が詰まることで起こる『心筋梗塞』

ご存知の通り、心臓は収縮と拡張を繰り返すことで身体中に血液を送り出す、ポンプの役割を担う重要な臓器です。この心臓を動かすエネルギーを供給しているのが、心臓を覆うように流れている「冠動脈(冠状動脈)」になります。冠動脈は3つの大きな枝に分かれていて、ここからさらに細かい血管に枝分かれしているんです。
この冠動脈の一部が詰まってしまうと、血液が不足して、その先の心筋細胞が壊死してしまうのです。そうなると、正常な収縮と拡張ができなくなり、全身に十分な血液が届けられなくなってしまいます。

冠動脈が詰まる原因の多くは動脈硬化です。その原理を簡単に説明しましょう。
血管は外膜、中膜、内膜の3層からできています。この内膜に、コレステロールや繊維といった物質が蓄積することで「プラーク」という膨らみを作り出します。このプラークができることで血管の弾力性が失われてもろくなったり、血管内が狭くなったりするのです。
このプラークによって血管が狭くなり、流れる血液の量が少なくなったことで心臓の一部が酸素不足となり胸の痛みを感じる病気が「狭心症」と言われるものです。
さらに症状が進行してプラークが破裂すると、その部分を修復しようと血小板などが集まり、急激に血栓が作られて血管が詰まる場合があります。これが冠動脈で起こった状態が「心筋梗塞」です。

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この狭心症と心筋梗塞の2つを合わせて『虚血性心疾患』と言います。血管が狭まったり詰まったりして血液量が不足するから「虚血性」と言うわけです。

心筋梗塞に罹るとどんな症状が出るのか

強烈な痛みから無自覚まで、様々な症状

心筋梗塞の代表的な症状といえば、20分以上継続する胸の痛みです。これは大変な激痛で、脂汗が吹き出る人やショックで意識を失う人もいるほど。

しかし、怖いのは胸痛のようなわかりやすい症状が出ずに進んでいる場合です。
例えば左腕や左肩、歯の痛みを訴える人もいますが、なかなかこの症状を心筋梗塞の初期症状と結びつける人は多くありません。中には全く症状を自覚しないまま病気が進行してしまうケースもあります。
その場合、心筋の壊死が進み、取り返しがつかないレベルまで心機能が低下してしまうこともあるのです。

死に直結する合併症の恐怖

心筋梗塞は様々な合併症(ある病気に続発する他の病気)を引き起こします。
有名なのは不整脈でしょう。心筋の動きに一部異常が生じることで、血流が速くなったり、拡張と収縮のリズムが崩れたりしてしまいます。不整脈は、健康診断などで指摘されるようなことが多く、あまり「重篤な病気」というイメージはないかもしれませんが、不整脈の種類によってはとても怖い病気です。
急性心筋梗塞で突発的に亡くなる人の多くは、心臓にある4つの部屋のうち全身に血液を送り出す機能を担う左右の「心室」がけいれんし、正常に収縮と拡張を繰り返せなくなる「心室細動」という不整脈の一種が原因で死亡していると考えられています。
救命救急で使用されるAEDはこの「心室細動」の治療に使われています。

他には、全身に十分な血液が循環しなくなる「心原性ショック」や、肺に血液が溜まり、うまく呼吸ができなくなる「肺うっ血」が合併症として知られています。

どう見つける?心筋梗塞の診断方法

とても怖い病気である心筋梗塞ですが、健康診断などで行われている検査から初期の段階で発見することもできます。
具体的に心筋梗塞を発見できる主な検査方法は下記の4つです。

①心電図

心電図検査はスクリーニング検査の一種で、心筋梗塞の疑いがある場合に最初に行うものになります。手軽に行える上に、医師や専門家が見ればすぐに傾向がつかめるのがポイント。
心筋梗塞が起きていると、心臓の電気運動にも異常が生じて典型的な波形が現れます。心電図を確認することで、閉塞箇所の予測もできます。

②血液検査

心筋細胞が破壊されると、しばらくして血液中に本来なら筋肉内に存在する「クレアチンキナーゼ」という酵素や心筋を構成するタンパク質が溶け出てくるため、血液検査も判断材料の一つとなります。

③心エコー検査

心エコーは心臓の収縮及び、拡張機能のどこにどの程度の影響が出ているか確かめられる検査です。また、他の血管疾患との鑑別にも有用で、最近はよく使われています。
異常を発見するだけでなく、治療法の選択や治療効果の判定にも用いられます。

④冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)

主に右手首や右足太ももの付け根にある動脈から「カテーテル」と呼ばれる細長い管を冠動脈まで通し、血管内に造影剤を注入します。その後複数の角度から心臓を撮影して、血管が狭くなっている箇所や閉塞している箇所を特定する検査です。
カテーテルを入れる場所が決まっているのは、その位置に太くまっすぐな血管が通っており、心臓まで管を通しやすいためです。検査・治療後の回復が早いので、最近では手首から入れるケースが多くなっています。

早期に発見すればすぐに対処できる病気です。ぜひ定期的な健康診断などには参加するようにしましょう。

定期的な検査で心筋梗塞を避けよう

意外と身近な病気の心筋梗塞。生活習慣病と言われるだけに、体重の軽減や食事内容の改善などで予防することが大切です。
では具体的にどんなことをしたらいいのか。
次回の記事では、心筋梗塞の治療法と予防法をお伝えします。

■心筋梗塞の治療法・予防法はこちらから!

参考文献

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

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