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2023.05.01

タスク分割でやる気アップ!脳の仕組みから考えるモチベーションを維持するコツ

kencom公式ライター:村岡祐菜

日々仕事に取り組んでいると、「今日はどうしてもモチベーションが上がらない…」「あの人はどうしていつも高いモチベーションで仕事ができるのだろう?」と思うこともあるのではないでしょうか。いつでも仕事に対して高いモチベーションを維持できるのは理想的ですが、なかなか難しいですよね。

今回お話を伺ったのは、『モチベーション脳: 「やる気」が起きるメカニズム』の著者で、東京大学で脳神経科学の研究をされている大黒達也先生です。神経科学からみたモチベーションや、脳の仕組みを利用したモチベーション維持のコツについて解説していただきました。

大黒達也(だいこく・たつや)先生

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東京大学大学院情報理工学系研究科 次世代知能科学研究センター 特任講師/広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター客員准教授/ケンブリッジ大学CNEセンター客員研究員
1986年生まれ・脳神経科学者。医学博士。オックスフォード大学、マックス・プランク研究所勤務などを経て現職。専門は音楽の脳神経科学と計算論。著書に『モチベーション脳: 「やる気」が起きるメカニズム』(NHK出版新書 693)、『音楽する脳』(朝日新書)などがある。

神経科学の視点からみた、モチベーションとは?

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モチベーションに対する考え方は、切り口によってさまざまな考え方や捉え方があるため、一概に正解とされている定義づけはありません。そのような中で、神経科学の観点からみたモチベーションとは、

“情報の不確実性を下げること”

にあります。

たとえば、難しい数学の問題を出されたときに「この問題に対して答えを出したい」というのが、脳にとってのモチベーションです。実際に問題が解けた(=不確実性が下がった)ときには、脳が報酬を受け取って人は喜びを感じられるような仕組みになっています。

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基本的に脳は、情報の不確実性を下げる方向に動く仕組みになっているのです。不確実性を下げる仕組みが働くのは、数学の問題を解くときのような意図的な行動だけに限りません。「疲れたから眠くなった」「暇だから散歩に行こうかなと考えた」といった、私たちが普段自然に意思決定している出来事も、情報の不確実性を下げようとする脳の仕組みに基づいているということができます。

「自分で考えたり調べたりしたら、わからないことがわかるようになるかもしれない」と期待できるようなレベルの情報に出会うことも、脳にとってのモチベーションになる可能性があると考えています。目新しい情報に興味が湧く、知的好奇心のようなものとも言えるでしょう。

入社3年目で転職が増える理由は、モチベーションにある!?

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不確実性の揺らぎがあるときに、脳のモチベーションは高い状態に保たれます。難しく複雑な情報に触れ続けたり、当たり前の情報ばかりが手に入るような状況に置かれ続けたりすると、モチベーションは下がってしまいます。新しい情報に触れて、それを自分なりに理解したという経験を時間の流れのなかで繰り返しているときに、脳のモチベーションは上がるのです。

自分が“当たり前”と感じる情報に触れ続けていると、脳のモチベーションは下がってしまいます。そして、脳は自然に新しい情報をキャッチしようとする方向に働きます。

新卒で入社したころは毎日が新しい刺激にあふれていた仕事も、3年ほど経つと一通り慣れてくる人が多いことでしょう。入社して3年目くらいで転職を考える人が多いのは、モチベーションが下がり、新しい刺激を求めているのかもしれません。

モチベーションを高く保つポイントは揺らぎにあるので、適切なタイミングで適切な刺激や負荷を脳にかけることが大切です。疲れているときに無理やり難しく複雑なタスクをこなそうとすると、脳のモチベーションはどんどん下がってしまいますので注意しましょう。

モチベーションを維持する2つの方法

脳のモチベーションが上がるのは、時間の経過とともに情報の不確実性が上がったり下がったりしているときです。すなわち、不確実性の揺らぎを常に生み出すことが、高いモチベーションを保つポイントと言えるでしょう。

1. モチベーションを維持するためにタスクを分割しよう

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仕事の場面でいうならば、頭を使わずにできる単純なタスクと、じっくり考える必要のある複雑なタスクを常に分割しておくことが、脳のモチベーションを維持するひとつの方法です。単調な仕事が続いているときには少し頭を使うようなタスクに手をつけてみたり、頭を使って疲れているときは単純なタスクをやったりすることで、ある程度は意識的に揺らぎを生み出せます。

また、ときには無駄だと思えることをあえてやってみることも、モチベーションを維持するうえでは重要です。毎日忙しく過ごしていると、つい効率化や無駄を省くことに意識を向けてしまいがち。ただ、私たちが意識していなくても、脳はもともと効率を追求するような仕組みをもっているのです。無意識のうちに効率化を図ろうとしているのに、意識のうえでも効率化ばかりを気にしていると、新しい刺激を受ける機会は減ってしまいます。

近年リモートワークを推奨する会社が増えてきました。通勤時間がなくなったことも、会議がすべてオンラインになったことも、無駄がなくなって効率化されたと言えるでしょう。

でも実際にオフィスに出勤すると、通勤時間にハプニングが起こったり、会社内の何気ない会話から新しいアイデアが生まれたりすることもあったのではないでしょうか。一見無駄に思えるような時間が、実はモチベーションの維持につながっていることは、日々の生活で起こっていることなのです。

仕事でモチベーションを維持するためには、単純なタスクと複雑なタスクを分割してバランスよくこなすことや、無駄と思えるようなことにあえてチャレンジしてみることが大切です。

2. チームのモチベーションアップを意識しよう

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単純なタスクと複雑なタスクを分割して揺らぎを生み出すことは、モチベーションを維持するうえである程度役立ちます。ただ、個人のモチベーションは、周りの環境にも大きく影響を受けるものです。自分のなかだけでいくらモチベーションを高く保とうと意識しても、置かれている環境のモチベーションが低ければ、モチベーションの維持には限界がきてしまいます。

会社では、部署やチーム単位で仕事をこなすこともあるでしょう。実はチーム単位で仕事をしているときに一人ひとりが高いモチベーションを維持するためには、お互いが相手のモチベーションを上げることを意識するのが重要ではないかと考えています。

理想は、個人の特性とその日のモチベーションの状態を把握したうえで、適切なレベルの仕事を割り振ること。ただ、チーム全員の特性とモチベーションを正確に把握することは、実際には難しいものです。

まずは、チームで仕事をするときは、全体像を共有したうえで一人ひとりがどのような役割を果たしているのか理解することから始めましょう。それだけでも、モチベーションの維持に役立つものです。単純にタスクを割り振るだけでなく、割り振ったタスクが全体のなかで、自分が果たす役割が、どのような位置づけになっているかを明確にして、お互いが助け合いながら仕事を進められるように意識しましょう。

モチベーションが上がらないなら環境を変える勇気も必要

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お互いが助け合えるようなチーム内の環境であれば問題ありませんが、助け合いが難しい環境にいる人もいることでしょう。もし自分が周りのモチベーションを上げようと働きかけても周りが変わらないのであれば、環境を変えることも検討しましょう。

仕事のモチベーションが上がらないなら、部署を異動したり、今までの役割とは違った分野に挑戦することが挙げられます。個人のモチベーションが、環境に大きく影響を受けるのは事実です。ただ、モチベーションが上がらないことを環境のせいにしてしまうのではなく「モチベーションが上がらない環境にいる自分はどう行動するか?」を考えることが重要です。

脳の仕組みを理解して、モチベーションの維持に役立てよう

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私たちの脳は、複雑な情報を因数分解して自分なりに理解できたときに喜びを感じるもの。新しい情報を理解したいという思いがモチベーションにつながっているのですね。自分のモチベーションが高いときと低いときの差が激しくて悩んでいた方にとっては、解決のヒントになるのではないでしょうか。

神経科学からみたモチベーションの考え方について、もっと少し詳しく知りたい方は、ぜひ先生の著書『モチベーション脳: 「やる気」が起きるメカニズム』も参考にしてみてくださいね。

■今回のお話を伺った大黒達也先生の著書

『モチベーション脳: 「やる気」が起きるメカニズム』大黒達也・著 NHK出版新書 693

『モチベーション脳: 「やる気」が起きるメカニズム』大黒達也・著 NHK出版新書 693

記事情報

著者プロフィール

村岡祐菜(むらおか・ゆうな)
薬剤師・フリーライター
千葉大学薬学部薬学科卒業後、薬局薬剤師として約4年間勤務後、ライターとして独立。現在は不定期で薬局薬剤師として現場に入りつつ、医療関連のコラム制作や取材記事の制作に関わる。専門知識を一般の方にもわかりやすく伝える文章を書くのが得意。

制作

監修:大黒達也
取材・文:村岡祐菜

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