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2023.02.21

抗菌薬が効かなくなる?世界で広がる薬剤耐性の恐ろしさ【おくすりコラム】

kencom公式:薬剤師ライター・高垣 育

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細菌を壊したり、増えたりするのを抑える薬を抗菌薬(こうきんやく)といいます。抗菌薬は、中耳炎などの感染症の治療に使われることがあります。この抗菌薬が効きにくくなったり、効かなくなったりすることを”薬剤耐性(Antimicrobial resistance:AMR)”といい、近年、この薬剤耐性をもった薬剤耐性菌が増えていることが問題となっています。

なぜ問題なのかというと、抗菌薬が効きにくい細菌が増えると感染症の治療が難しくなって重症化したり、さらには命の危険が高まったりするおそれがあるためです。

出典:国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター

AMR臨床リファレンスセンターによると、薬剤耐性による死亡者数は2013年には世界で70万人だったのに対して、2050年にはおよそ15倍の1,000万人に増加すると予想されています。この予想は、がんによる死亡者数の820万人を大きく上回ります。世界的に薬剤耐性が、どれだけ深刻な問題で、拡大を防ぐ取り組みが大切なのかが分かります。

薬剤耐性のメカニズム

薬物耐性はどのように起こるのでしょうか。

私たちは細菌などに感染すると、抗菌薬を服用します。これは私たちにとっては薬ですが、細菌にとっては”毒”です。細菌は、なんとか生き延びようとして、次のような仕組みを持つようになります。

・細菌に入ってきた薬を外へ出す
・細菌を覆っている膜を変化させて、薬が入ってきにくくする
・薬が細菌に届く前に化学反応で分解する など

出典:政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201611/2.html

出典:政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201611/2.html

上記のように、抗菌薬を適切に服用しないと、細菌の生き延びようとする力によって、薬物耐性菌が発生・増殖する場合があるのです。

このように、抗菌薬の効かない薬物耐性菌が広まると、感染症の治療が難しくなり、命の危険が高まってしまいます。

薬剤耐性の拡大を防ぐ4つの方法

薬物耐性の拡大を防ぐために、私たち一人ひとりにできることはあるのでしょうか。ポイントは4つです。

1.正しい知識を身につける

かぜをひいたとき、医師に「抗菌薬が欲しい」と希望したことはありませんか。しかし、かぜの原因のほとんどはウイルスです。抗菌薬は細菌に効く薬で、ウイルスをやっつけることはできません。必要がないのに抗菌薬を希望するのは控えるようにしましょう。

2. 正しく服用する

抗菌薬は医師に処方された用法・用量を守り、しっかり飲み切るようにしましょう。症状が良くなったからといって自分の判断で中断すると、細菌が耐性を持ちやすい環境を作り出すことになってしまいます。

3. わからないことは医師や薬剤師に相談する

ほかに飲んでいる薬があったり、妊娠や授乳中で薬を飲むのに不安な場合などは医師や薬剤師に相談しましょう。自分の判断で薬を飲むのをやめたり、減らしたりすると感染症がきちんと治らずにぶり返したりすることがあります。

4. 感染症にかからないように予防をする

抗菌薬を使わなくても済むように、ワクチン接種、手洗い、咳エチケットなどの基本的な感染症の予防対策をしましょう。

自分の未来のため、大切な人のために

未来の自分や、自分の大切な人が感染症にかかったときに、治療に使える抗菌薬がなくなってしまったら命に関わります。薬剤耐性菌を増やさないように、そして広げないようにするために、私たち一人ひとりが正しい知識を持って、適切に行動することが大切です。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

高垣 育(たかがき・いく)
2001年薬剤師免許を取得。調剤薬局、医療専門広告代理店などの勤務を経て、12年にフリーランスライターとして独立。薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。15年に愛犬のゴールデンレトリバーの介護体験をもとに書いた実用書『犬の介護に役立つ本(山と渓谷社)』を出版。人だけではなく動物の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行い、さまざまな媒体に寄稿している。17年には国際中医専門員(国際中医師)の認定を受け、漢方への造詣も深い。

制作

文:高垣育

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