2022.09.02
病院の薬とドラッグストアの薬は何が違うの?OTC医薬品活用のススメ
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頭が痛い!お腹が痛い!肩や腰がツライ!そんな時、皆さんはどうしていますか?わざわざ病院に行くほどでもないちょっとした不調は、近くの薬局やドラッグストアで購入できる市販薬が活躍します。
今回は、薬にまつわる素朴なギモンをひとつひとつ検証しながら、市販薬の賢い活用方法を探っていきます。お話を伺ったのは、横浜市立大学医学群健康社会医学ユニット准教授(東京大学大学院薬学系研究科 客員准教授)の五十嵐中先生です。
五十嵐 中(いがらし あたる)先生
横浜市立大学医学群健康社会医学ユニット 准教授
東京大学大学院薬学系研究科 客員准教授
【プロフィール】
2002年東京大学薬学部薬学科卒業。2008年東京大学大学院薬学系研究科博士後期課程修了。専門は薬剤経済学. 医療経済ガイドラインの作成・個別の医療技術の費用対効果評価・QOL評価指標の構築など、 多方面から意思決定の助けとなるデータの構築を続けてきた。
著書に『医療統計わかりません (東京図書, 2010)』『わかってきたかも医療統計(東京図書, 2012)』『薬剤経済わかりません(東京図書, 2014)』などがある。
病院の薬と市販薬はどう違う?OTC医薬品って何?
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私たちが普段手にする薬は、病院で医師が処方する薬(医療用医薬品)と、ドラッグストアなどで購入できる市販薬(OTC医薬品)があります。では、この2つはどう違うのでしょうか。
医療用医薬品とは
病院で医師が処方する医薬品のことを指します。一番の目的は、病気に有効であることです。
医師でしか処方できない成分が入っており、使われる有効成分の種類や容量も多いのが特長です。例えば、抗がん剤のように医師の判断のもと、副作用があることを承知の上で、効き目を優先させるものもあります。
OTC医薬品とは
初めて耳にする方も多いかもしれませんが、一般的に”市販薬”と呼ばれている、処方箋がなくとも薬局やドラッグストアなどで購入できる薬のことを「OTC医薬品」といいます。(※ ただし購入する際に、薬剤師の問診を受ける必要がある薬もあります)
OTC医薬品のOTCは、Over The Counterの略(カウンター越しという意味)で、薬をカウンター越しに販売していたことに由来しています。
医療用医薬品と比較すると安全性が重視されているため、薬の有効成分の含有量は、医療用医薬品に比べると少なめになっているものが多く、病気の初期や軽症の段階で使用する目的で作られています。
そしてOTC医薬品の中に、「スイッチOTC医薬品」というものがあります。これは、医療用医薬品のうち、十分に安全性と使用実績が確認されているものを、OTC医薬品に転用したものです。
例えば、かぜや新型コロナワクチンの服反応を抑える際に処方される医療用医薬品、「カロナール(アセトアミノフェン)」です。カロナールは、アセトアミノフェンという有効成分を含む、解熱鎮痛剤の商品名です。同様の成分を含むOTC医薬品がありますので、ドラッグストアへ行った際には注目してみてください。
この他、頭痛や生理痛の時に処方される医療用医薬品「ロキソニン(ロキソプロフェン)」や、花粉症の症状を抑えるために使われる医療用医薬品「アレグラ(フェキソフェナジン塩酸塩)」は、同じ名称のOTC医薬品があり、有効成分の量なども全く同じものがあります。
胃腸薬、水虫・たむし用薬、肩こり・腰痛・関節痛の貼付薬なども同様に、実は医療用医薬品とOTC医薬品で同じ成分の薬を持っていた、なんてことも少なくありません。
▼市販薬をお得に利用する方法はこちらの記事から
医療用医薬品とOTC医薬品はどっちがお得?
ちょっとした不調ならOTC医薬品で対処ができると分かっていても、病院に行った方が薬が安く買えるというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
病院を受診して薬を処方してもらう場合、多くの方は3割負担なのに対し、OTC医薬品は、全額自己負担です。そのため薬代で比べると、処方薬の方が割安に見えます。
ですが実際には、病院を受診すると薬代以外の料金がかかります。例えば、初めて診察を受ける際の初診料をはじめ、再診料、医学管理料、処方箋を出してもらうための処方料、薬局で薬を梱包してもらうための調剤費などが加算されています。
医療費とOTC医薬品、病気ごとに支払う費用を徹底比較!
3割負担の医療費とOTC医薬品の費用を比較
かぜ、鼻炎、便秘、胃炎、胸やけ、頭痛及び腰痛について、病院を受診した際に支払う費用(診察料と医療用医薬品代の合計)、OTC医薬品を購入した際の費用を、比較調査した結果が以下の表です。
2020年日本OTC医薬品協会セルフメディケーションの日シンポジウム「OTC医薬品の潜在的な価値は?」資料より作成 3割負担の医療費と、OTC医薬品購入費用の比較
3割負担の医療費とOTC医薬品の費用を比べてみると、かぜ、便秘、胃炎、頭痛では、OTC医薬品の方が安くなっているのに対し、鼻炎、胸やけ、腰痛では、OTC医薬品の方が高くなっているということがわかりました。つまり3割負担で考えても、必ずしも「医療機関に行った方が安いわけではない」ということがわかります。
では次に、国が負担している部分も含めた、医療費全体(10割)で比較してみましょう。
医療費全体(10割)とOTC医薬品の費用を比較
2020年日本OTC医薬品協会セルフメディケーションの日シンポジウム「OTC医薬品の潜在的な価値は?」資料より作成 医療費全体(10割)と、OTC医薬品購入費用の比較
全ての疾患で、OTC医薬品の購入費用の方が大幅に安くなっています。患者さんの負担だけ見たときには、安上がりになっているケースでも、国の負担額、すなわち私たちが払っている税金や保険料を考えると、結果的には高額になっているのです。
また現在、国全体にかかる医療用医薬品の金額は10兆を超え、一方でOTC医薬品は7,335億円です。
軽いかぜや、毎年同じ症状の花粉症、毎月の生理痛など、特定の薬を飲んでいれば症状が良くなることがわかっているような場合は、まずはOTC医薬品で様子をみる、これは医療費の削減にも少なからず繋がります。
もちろん、辛い症状を無理に我慢する必要は全くありません。改善せず悪化する場合には病院に行くというような選択肢があることを考慮し、受診できるといいですね。
健康意識を高め、日々健やかに過ごすために
©︎Rino
高齢化率が30%に迫る、超高齢社会の日本。健康寿命の延伸や社会保障制度の維持という観点からも、いま改めて、ひとりひとりが自身の健康管理に目を向けることが大切です。
そのためには、日々の生活にOTC医薬品を上手に取り入れつつ、適度な運動や健康的な食事、十分な休息など、自分でできる健康習慣をしっかりと身につけていきたいですね。
▼参考文献
著者プロフィール
■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。