メニュー

2023.02.24

糖尿病治療に有効なSGLT2阻害剤。慢性腎臓病にも役立つか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

糖尿病治療に使われているSGLT2阻害剤は、糖尿病のコントロール以外にもさまざまな有効性がありそうです。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2023年1月12日掲載された、糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害剤の、腎臓病に対する進行予防効果を検証した論文です。
  

▼石原先生のブログはこちら

糖尿病治療以外にも有効なSGLT2阻害剤

SGLT2阻害剤は、尿へのブドウ糖の排泄を増加させることにより、糖尿病のコントロールを改善する作用を持つ薬剤ですが、心血管疾患のリスクを低下させる作用のあることが確認され、慢性心不全の患者さんへの治療薬としても、糖尿病の有無に関わらず使用されるなど、その使用適応が拡大されて注目を集めています。

糖尿病と合併した慢性腎臓病の患者さんにおいても、その進行予防や予後の改善において、SGLT2阻害剤が有効であることが確認されています。

ただ、糖尿病のない慢性腎臓病の患者さんにおいても、同様の有効性があるかどうかについては、まだデータが限られているのが実際です。

これまでにも、メタ解析の論文は発表されていますが、単独の臨床研究でその点が検証されたことはあまりありませんでした。

慢性腎臓病への有効性を検証

今回の研究は、世界8か国の241の専門施設において腎機能の基準である推計糸球体濾過量(eGFR)という数値が、20以上45mL/min/1.73㎡未満であるか、45mL/min/1.73㎡以上90未満で尿中アルブミンがクレアチニンのグラム換算で200㎎以上のタンパク尿が認められるか、という幅広い範囲の慢性腎臓病の患者、トータル6609名をくじ引きで2つの群に分け、一方はSGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(商品名ジャディアンスなど)を1日10㎎使用し、もう一方は偽薬を使用して、中間値で2.0年の経過観察を施行しています。

その結果、末期腎不全への進展や、登録時から40%以上のeGFRの低下、腎臓病による死亡と心血管疾患による死亡を併せたリスクは、偽薬と比較してエンパグリフロジンの使用により、28%(95%CI:0.64から0.82)有意に低下していました。

この結果は、糖尿病のあるなしに関わらず、また登録時の腎機能のレベルに関わらず認められていました。ただ、個別の解析では総死亡のリスクや、心血管疾患による入院は死亡のリスクについては、明確な差は認められませんでした。

腎臓病治療の基礎薬にも

このように、今回の厳密で大規模な解析においても、SGLT2阻害剤による腎臓病進行予防効果は確認されていて、今後この薬は糖尿病、心不全に続いて、慢性腎臓病に対しても、治療の基礎薬として使用される流れになりそうです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36