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2022.09.20

新型コロナとインフルエンザの血栓症リスクの違い【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナの感染後は全身の血栓症のリスクが増加すると言われています。インフルエンザなどでも同様の症状は起きますが、コロナとインフルエンザではどの程度血栓症リスクに差があるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2022年8月16日掲載された、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの、急性期の血栓症リスクを、動脈系と静脈系に分けて比較した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

コロナとインフルエンザ、血栓症のリスクに差はある?

新型コロナウイルス感染症の罹患後3か月程度の時期には、全身の血栓症のリスクが増加することが知られています。その中には動脈系の血栓症である、心筋梗塞や虚血性梗塞と、静脈系の血栓症である、深部静脈血栓症や肺塞栓症が含まれています。

ただ、インフルエンザのような他の流行性ウイルス感染症においても、そうした指摘はあり、実際にインフルエンザなどの場合と比較して、血栓症のリスクにどのような差があるのか、というような点については、あまり明確な知見がありませんでした。

動脈系・静脈系に分けて血栓症リスクを調査

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、新型コロナウイルス感染症で入院した85637名と、季節性インフルエンザに感染して入院した8269名の、入院後90日以内の血栓症の発症リスクを、新型コロナではワクチン導入前と導入後に分け、血栓症は動脈系(急性心筋梗塞と虚血性梗塞)と、静脈系(深部静脈血栓症と肺塞栓症)とに分けて、その違いを比較検証しています。

その結果、動脈系の血栓症リスクには新型コロナとインフルエンザとの間に、有意な差は認められませんでしたが、静脈系の血栓症リスクについては、インフルエンザと比較して新型コロナウイルス感染症では、新型コロナワクチン導入前で1.60倍(95%CI:1.43から1.79)、ワクチン導入後で1.89倍(95%CI:1.68から2.12)、それぞれ有意に増加していました。

コロナ罹患後3か月は静脈系の血栓症リスク増

このように、新型コロナウイルス感染症は季節性インフルエンザと比較して、罹患後3か月以内の急性期に、特に静脈系の血栓症のリスクがより高く認められていて、こうした違いの理由は現時点では不明ですが、両者の感染症の罹患後には、その違いも意識した管理が今後は必要と考えられます。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36