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2022.07.28

年齢差別(エイジズム)のは健康にどんな影響を及ぼすか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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国籍や肌の色、性別などでの差別には敏感に反応している現代ですが、高齢者を下に見るような年齢差別についてはどれくらいの人が意識しているでしょうか。

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2022年6月15日ウェブ掲載された、最近注目されている年齢差別(エイジズム)についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

タブー視されている差別意識

性差別の問題が今ほど注目されている時代はないでしょう。もう男女の違いについて、少しでも発言することはタブーとなっています。ただ多くの人はそのスピードに追い付いてはいないので、多くの炎上や批判が、意図せざるような発言の度に繰り返されています。

社会的な偏見や思い込みに伴う性差というもの、特に「女性は男性に比べて劣っている」と言う優劣の認識を元にしている考え方については、明らかに差別的で誤ったものだと思います。

ただ、科学的には性差というものは間違いなくあって、遺伝子レベルでも明確な差があり、その性質の違いというものも存在しています。

動物においてももちろん性別はあって、性別による役割の差も、それが何処までが遺伝子レベルで決まっているものなのかは、簡単に区別することは出来ませんが、存在していることは間違いがありません。

そうした科学的な性差というものを、今の混沌とした性差別の海から拾い上げることは、そう容易いことではありません。

ある意味、医学の役割はより増したという言い方も出来ますが、その責任を医学者や科学者が自覚しているかと言うと、はなはだ疑問にも感じます。

年齢差別(エイジズム)とは?

性差別の問題と比べるとまだ目立ってはいませんが、問題となりつつある差別意識の現れの1つが、今回のテーマである年齢差別です。

これをエイジズム(Ageism)と呼んでいます。

エイジズムというのは、主に高齢者であることを理由に、偏見と思い込みにより、「高齢者は若者より劣っている」という考え方を持ったり、それを表明したりそれを元に行動したりすることで、上記論文においては、これを年齢差別的思考(intermalized ageism)、年齢差別的メッセージ(ageist messages)、年齢差別的対人関係(interpersonal ageism)、の3種類に分けてスケール化しています。

年齢差別的思考というのは、「年を取ると孤独になる」「年を取ると病気になる」、というような考え方を自然に持ってしまうことで、年齢差別的メッセージというのは、他人のそうした発言などを、見たり聞いたりすることです。

年齢差別的対人関係というのは、高齢者が相手から、「物わかりの悪い年寄りだから、難しい言葉は使わずに話をしよう」というような、差別的対応を受けることです。

平然とテレビやネットなどでも言われている、「老害」や「いい加減若者に道を譲るべきだ」、というような発言は、本来は間違いなくエイジズムなのです。

医療現場で言えば、高齢の患者さんに対して子供に使うような言い回しをして、「ほらほら、おばあちゃん、転ばない様に気をつけて」というような対応をすることも、高齢の患者さんが不定愁訴的な訴えをすると、「それは年のせいだから仕方がないですね」のような、ステレオタイプ的あしらい方をすることも、エイジズムであると言えるのです。

エイジズムの健康影響を調査

さて、こうした年齢差別は、高齢者の健康にどのような影響を与えるのでしょうか?今回ご紹介する論文ではアメリカにおいて、50から80歳の2035名の一般住民を対象として、エイジズムの健康影響を調査しています。

その結果、全体の93.4%に当たる1915名が、毎日何らかのエイジズムを経験していました。中では年齢差別的思考を81.2%が、年齢差別的メッセージを65.2%が、年齢差別的対人関係を44.9%が経験していました。

そして、エイジズムを多く経験している人ほど、体調は悪く、高血圧や糖尿病、癌などの疾患のリスクも高く、うつ病などの精神疾患のリスクも増加していました。

ステレオタイプな高齢者像が悪影響を及ぼしているかも

これは因果関係を推測出来るような性質のデータではありませんが、「高齢者は病気を持ち具合も悪く孤独だ」というような全ての高齢者に当て嵌まる訳ではない、ステレオタイプな高齢者像がすり込まれることにより、実際に高齢者の健康にも負の影響が生じるのではないか、という可能性を示唆するものです。

難しい点は性別の差別と同じように、年齢(加齢)も医学的に健康に大きな影響を与える因子ではあることで、問題は年齢に伴う科学的な事実と、ステレオタイプな高齢者像がもたらす悪影響とを、どのように区別して議論してゆくべきか、という点にあるのだと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36