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2018.08.29

食事で考えるべき、糖質と脂質のバランス【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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ダイエットの常識は、脂質制限食から糖質制限食に変わりつつあります。しかし、健康のためにはどちらを選ぶほうがいいのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2017年のLancet誌に掲載された、糖質と脂質、蛋白質のカロリーバランスと、心血管疾患リスク、生命予後との関連についての、世界規模の大規模な疫学データを解析した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

糖質制限と脂質制限、健康にいいのはどちら?

最近は糖質制限が体重減少に有効として、ダイエット法としても主力になりつつありますが、長期糖質制限を継続した場合に、身体にとってどのような影響があるかは、現時点ではまだ明らかではありません。

心血管疾患の予防ガイドラインにおいては、脂質の摂取量を総エネルギーの30%未満として、特に飽和脂肪酸を10%未満とすることを推奨しています。

これは総カロリーのうち、その制限した脂質の部分を、蛋白質を増やすか、糖質(炭水化物)を増やして、補うということを意味しています。
つまり、脂質制限をするというガイドラインは、結果として高蛋白食か高糖質食を推奨しているのです。

ただ、このガイドラインの元になったデータは、欧米が主体のもので、人種差や地域差のようなものを、あまり考慮していないという問題点がありました。

世界18カ国の食事内容と総死亡リスク等の関連を検証

脂質は多いほど生命予後が良いという驚くべき結果に

そこで今回のPUREと題された研究では、世界5大陸18カ国の35から70歳の135335名を対象として、栄養調査の上中間値で7.4年の経過観察を行い、心血管疾患の発症リスクと総死亡のリスクと、3大栄養素の摂取バランスとの関連を検証しています。

アジアも複数の国が含まれていますが、日本は対象ではありません。

その結果、脂質の摂取カロリーが最も少ない群と比較して、最も多い群では総死亡のリスクが、23%(95%CI: 0.67から0.87)有意に低下していました。
脂質は多いほど、むしろ生命予後が良いという、ちょっと驚くべき結果です。

飽和脂肪酸の摂取量が多いほど死亡リスクや脳卒中リスクが低下

最も悪玉と想定されてきた飽和脂肪酸ですが、最も多い群では最も少ない群と比較して、総死亡のリスクが14%(95%CI: 0.76から0.99)、総脂肪より明確ではないものの、矢張り摂取量が多いほど死亡リスクが低いという結果が得られました。

また脳卒中の発症リスクについても、飽和脂肪酸が最も多い群で、最も少ない群と比較して、21%(95%CI: 0.64から0.98)これも有意に低下していました。

それ以外の心血管疾患の発症リスクと死亡リスクについては、脂肪の摂取カロリーとの間に有意な関連は認められませんでした。

逆に糖質は、摂取量が多いほど死亡リスクが増加

一方で糖質(炭水化物)の摂取カロリーで見ると、最も少ない群と比較して最も多い群では、総死亡のリスクが1.28倍(95%CI: 1.12から1.46)と有意に増加していました。
ただ、糖質の摂取量と心血管疾患の発症リスク、および心血管疾患による死亡リスクについては、有意な関連は認められませんでした。

この結果は中国、南アジア、アフリカにおいて、総カロリーに占める糖質の比率が、他の国や地域と比較して、かなり多いという事実と無関係ではないようです。

この結果はこれまで脂質の制限を優先としていた、欧米主体の食事指導のガイドラインに、根本的な疑問を突きつけるものです。

おそらく地域差や栄養バランスによって、この結果は変わるものと思われます。

高糖質食の日本では糖質制限のほうが有用

いずれにしても、日本のような伝統的に高糖質食の地域では、脂質制限より糖質制限の方が、生活改善において有用なことが多いことは確かで、次の問題は長期的に、総カロリーのうち糖質をどの程度まで制限し、それを何のカロリーで代替することが適切であるのか、その点の検証にあるように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36