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2022.06.24

東京湾が育んだアサリをふんだんに。東京下町の「深川めし」【ニッポン地元メシ#23】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

日本中のみならず世界の最先端のモノ、文化、技術が集まり発信地となる東京。

新しいものや珍しいものばかりに注目が集まりがちですが、下町を覗くと今なお色濃く残る江戸の文化も。

東京の郷土料理といえば赤酢の江戸前寿司やもんじゃ焼き、牛鍋(現在のすき焼き)、ウナギ、蕎麦やどじょう鍋と様々なグルメがありますが、今回はその中から「深川めし」を紹介します。

2種類の「深川めし」

画像提供:農林水産省Webサイトhttps://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/34_1_tokyo.html

画像提供:農林水産省Webサイトhttps://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/34_1_tokyo.html

「深川」というのは東京都にある地域の名称です。
江戸時代、現在の東京湾には多くの干潟があり、アサリやハマグリ、アオヤギといった採貝業が盛んだったそうです。「深川めし」が生まれた江東区深川地区、隅田川河口近くは潮が引くとこれらの貝類がたくさん獲れたことから、この料理名が定着しました。

元々は忙しい漁師が船の上でも手軽に作ることができ、パパっと食べられて栄養補給になるものとして考えられたと言われています。
江戸時代に入ると殻から外した貝の身「ぬきみ」だけが販売されるようになり、それを使って炊き込みご飯が生まれました。さらに、炊き込みご飯を温かくいただくために熱い汁をかける食べ方が「江戸めし」として定着したと言われています。

昭和の初期までは浅草で深川めしを販売する屋台が多く存在し、一般家庭でも食べられていました。

現在ではぶっかけスタイルの「深川めし」と炊き込みスタイルの「深川丼」の2種類があり、さらにごはんのないものは「深川鍋」と呼ばれています。

※炊き込みスタイルを「深川めし」として販売している店舗もあります。

うま味たっぷり!深川めしの作り方

写真提供:一般社団法人江東区観光協会

写真提供:一般社団法人江東区観光協会

深川めしの材料は、アサリやハマグリなどの貝類、ねぎ、海苔ととてもシンプルです。
味付けは味噌ベースや醤油ベースなど家庭やお店によって変わりますが、どちらも重要となるのはアサリ等の貝類から出るだしとうま味です。

水と酒、アサリを鍋に入れ蓋をして火にかけ、アサリの口が開いたらアサリの身を取り出します。
残っている汁に醤油やみりん、もしくは味噌を入れて味付けし、最後にアサリを戻し入れてさっと火入れします。こうすることで身の縮みや硬くなるのを防げます。

汁を少し濃い目に仕上げると、ご飯にかけたときにちょうど良い味となります。

炊き込みご飯の場合はアサリから出た汁を使い、醤油やみりん、お好みで油揚げやにんじんの千切りなどを加えて炊き込みます。炊き上がって蒸らす時にアサリの身を加えます。
ねぎは長ねぎを一緒に煮こんだり、小口に切ったこねぎを最後にちらしたりとお好みの方法でOK。仕上げに海苔をのせて海の風味をプラスしたら完成です。

深川めしの栄養は?ミネラル豊富で忙しい現代人におすすめ

アサリのうま味は、カツオや昆布とはまたちがった濃厚さですが、これはコハク酸と呼ばれるうま味成分によるもの。

そしてアサリの身は取り出してみるととても小さいのですが、その中にも栄養素がたくさん詰まっています。
タンパク質はもちろん、ビタミンB12や鉄、亜鉛といった現代に不足しがちなミネラルが多く含まれます。また、塩味の成分でもあるナトリウムも多く含みますが、同時に余分なナトリウム排出に役立つカリウムも含みます。

ビタミンB12は貧血の予防や手足のしびれ改善にも用いられることがある栄養素です。
鉄は不足すると貧血になる栄養素として知られており、激しい運動を定期的にしている方、成長期のお子さま、月経のある女性は特に鉄の喪失量が多いため積極的に摂りたい栄養素です。
亜鉛には細胞の生まれ変わりを助ける働きがあります。不足すると味覚障害の原因となりますので積極的に摂取したいですね。

ここに発酵食品の味噌や食物繊維を含むネギ、効率の良いエネルギー源でもあるお米が加わると、主食から手軽に栄養補給ができます。毎日頑張る人には嬉しい一品ですね。

漁師の仕事は自然相手でさらに体力勝負。またアサリがとれる春は、当時はまだ肌寒い日もあったと思います。漁師の皆さんの体力を支えていたのは温かい深川めしだったのかもしれませんね。

アサリの水煮缶でカンタン再現!

写真提供:一般社団法人江東区観光協会

写真提供:一般社団法人江東区観光協会

活アサリが手に入る時期は、どうしても限られてしまいます。
そんな時はアサリの水煮缶を活用すると、とても手軽に作ることができますよ。

活アサリの下処理では、海水と同じくらいの塩分濃度に浸して新聞紙などをふわりとかぶせておくことで、アサリの体内に溜まった砂を吐き出させるというひと手間「砂抜き」が必要となります。これが上手くできないと、噛んだ時にジャリジャリと砂が残ってしまうことも。

缶詰と使うとこうした砂抜きの手間も省けますので、料理初心者の方でも簡単に作ることができます。
もちろん、缶に含まれている汁にはうま味がたっぷりと溶け込んでいるので捨てずにすべて使いましょう。

また都内の飲食店で深川めしを提供しているところもありますので、東京散歩の際には江戸の時代を感じながらいただくのも良いかもしれません。

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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