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2022.03.24

新型コロナの後遺症は、脳のせい?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生  

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新型コロナの後遺症として、さまざまな体調不良がおこることがあります。これは脳の変化の影響だという説があるのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Nature誌に3月7日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症後の脳の変化についての論文です。

これはまだ、正しいとも誤っているとも言いにくいものですが、一般のニュースにもしばしば取り上げられています。

▼石原先生のブログはこちら

コロナ後遺症は脳の機能に関係がある?

新型コロナウイルス感染症の罹患後には、多くの体調不良が後遺症のように残ることが知られていて、その中には全身倦怠感や頭痛など、脳の機能との関連が疑われるものが含まれています。認知機能の低下が見られたとする報告もあります。

またこの感染症に非常に特徴的な嗅覚味覚障害は、嗅覚中枢の神経細胞の障害によるという考え方があり、これは脳病変の1つの現れと考えることが出来ます。

ただ、それではどの程度の脳への影響が、どのような脳の部分に生じるのか、といった詳細については、あまり多数の事例を緻密に分析したような、信頼のおけるデータは存在していませんでした。

コロナ感染により脳の体積が減少

今回のデータは遺伝情報と臨床情報を含めた、大量の医療情報を蓄積しているUKバイオバンクのデータを解析したもので、平均で141日の間を空けて2回の脳MRI検査を施行した、51から81歳の785名のうちその間に新型コロナウイルス感染症に罹患した401名と、感染しなかった384名を比較して、感染による脳構造の変化を比較しています。

その結果、コントロールとの比較で脳全体の体積は、コロナの感染により0.3%程度低下していました。脳の部位別に見ると、認知機能や記憶に関わる海馬傍回と、嗅覚に関わる嗅皮質の部位に、特に感染による萎縮傾向が強く認められました。

この脳萎縮の程度は0.3から2%くらいのレベルもので、1年で0.2から0.3%は中年以降は自然に脳萎縮が生じるので、微妙な程度の差ではある点に注意は必要です。

嗅覚低下などの症状は脳の萎縮によるものか

この脳の感染による萎縮の変化は、インフルエンザ感染の事例やコロナ以外による肺炎の事例では、明確には認められませんでした。ただ、インフルエンザの事例は5例で、肺炎事例は11例のみですから、この点についてはまだ検証の余地を残しています。

この新型コロナ感染後の脳萎縮の変化は、入院にした比較的重傷の事例であった15例を、除外しても同様に認められていました。

つまり、論文の著者らの意見としては、今回認められた脳の一部に強く見られる萎縮性の変化は、感染に伴う嗅覚低下や認知機能低下と関連があり、新型コロナ感染に特徴的な変化で、軽症な事例にも認められる、ということになります。

より長期的な検証が必要

これはもう事実のように報道されていますが、現状は「そうしたこともあるかも…」というレベルのもので、今後他のウイルス感染などとの比較や、より長期の画像的変化などの検証などが積み重ねられることにより、その真偽が明らかとなる性質のものではないかと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36