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2021.08.12

新型コロナワクチンは肝硬変患者にも有効か?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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重い内臓疾患や免疫不全がある患者さんは、免疫の機能が低下しているのでワクチンの効果が十分に出ないと言われています。では、肝硬変の患者さんにはワクチンの有効性はないのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に2021年7月13日ウェブ掲載された、新型コロナウイルスワクチンの肝硬変の患者さんに対する有効性についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

肝硬変の患者さんもコロナワクチンを接種すべきか?

新型コロナウイルスワクチンのうち、mRNAワクチンであるファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のワクチンが感染予防に高い有効性を示していることは、臨床試験と市販後の疫学データを含めて、実証されている事実です。

ただその臨床試験においては、重い内臓疾患があったり免疫不全のあるような患者さんは最初から除外されているので、そうした患者さんに対する有効性は実際に接種が拡大して以降のデータを解析しないと分かりません。

そうした臨床試験の除外疾患の1つが、肝臓の機能が高度に低下した状態である肝硬変です。

肝硬変の患者さんでは、免疫の主体である抗体を作る機能も低下しているので、免疫力は弱く新型コロナウイルス感染症も重症化を来しやすいと想定されます。この点からは、肝硬変の患者さんは積極的にワクチンを接種するべき対象である、ということになります。その一方で肝硬変の患者さんでは、免疫の働きが低下しているので、ワクチン接種後の身体の免疫反応も弱いことが想定されます。

つまり、ワクチンの有効性も、肝硬変のない人より低くなる、という可能性が高い訳です。ここにワクチン接種においての1つのジレンマがあります。免疫の低下したような患者さんは、積極的にワクチンを接種するべき対象ですが、ワクチンの有効性もまた低い可能性があるのです。

肝硬変患者2万人超でワクチンの有効性を検証

それでは、実際に肝硬変の患者さんへのワクチンの有効性は、肝硬変のない人と比較してどの程度のものなのでしょうか?

今回のデータはアメリカの退役軍人を対象とした、肝疾患の疫学データを活用して、肝硬変を持ち、1回以上ファイザー社もしくはモデルナ社の、mRNAワクチンの接種を行なった20037名を、肝疾患や年齢などの要素をマッチングさせた、20037名のワクチン未接種者と比較して、ワクチンの有効性を検証しているものです。

その結果、ワクチンの初回接種後28日以降においては、肝硬変患者のワクチンによる遺伝子検査で診断された新型コロナウイルス感染症予防効果は64.8%で、新型コロナウイルス感染症に伴う入院や死亡のリスクの予防効果は100%でした。

ただ、肝硬変の状態で分けて解析すると、非代償性肝硬変の感染予防効果は50.3%で、代償性肝硬変の66.8%と比較して低率になっていました。これを2回目の接種後7日以降で解析すると、感染症予防効果は78.6%で、入院や死亡のリスクの予防効果は100%でした。

予防効果は少し落ちるが、有効性あり

このように、臨床試験での95%程度と比較すると、肝硬変の患者さんのワクチン予防効果は少し落ちることは間違いがありません。それでも重症化予防という意味では高い有効性を示していて、mRNAワクチンは肝硬変の患者さんにおいても、接種に意義のあることは間違いがなさそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36