メニュー

2022.02.24

赤身肉アレルギーと虚血性心疾患には関係がある?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

卵や乳製品等にアレルギー反応を起こす、食物アレルギー。

牛肉や豚肉などに反応する「赤身肉アレルギー」の方は、虚血性心疾患にも気をつけた方がいいという研究がありました。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology.誌に、2022年1月20日ウェブ掲載された、赤身肉によるアレルギーと虚血性心疾患との関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

食肉アレルギーとはどんなもの?

食物アレルギーは、現代病ではないかと思われるほど増加していて、多くの方が苦しまれていますが、そのメカニズムには、まだ不明の点が多く残っていて、抜本的な治療の方法も確立されていないなど、多くの問題があります。

最近肉を食べた後に数時間してから、アナフィラキシーと呼ばれる、呼吸困難や血圧の低下などを伴う、重症のアレルギー症状が出現する事例が、特にアメリカの南東部に多く発症することが注目され、その発症のメカニズムが、全てではありませんが、解明されつつあります。

食肉アレルギー、すなわち牛肉や豚肉などを食べて、蕁麻疹などのアレルギー症状の出る方は、食物アレルギー全体の中では、稀なケースと考えられていて、その多くは食肉のみのアレルギーではなく、多くの食品にアレルギーのあるケースで、症状も湿疹の悪化など、軽症の場合が多いと考えられて来ました。

人間も哺乳類ですから、その蛋白質の組成に、牛や豚と大きな違いはありません。

通常の食物アレルギーというのは、食物の中に含まれている、人間の身体には存在しないタイプの蛋白質に対して、それを抗原とするIgE抗体というタイプの特異的な抗体が出来、抗原と抗体との反応が、アレルギー症状に結び付くものと考えられています。

それは基本的には即時型のアレルギー、すなわち食べれば1時間以内に症状が出現する、というパターンを取ります。

その理屈で言うと、食肉の成分の蛋白質に対して、IgE抗体が産生される、という可能性は低く、それが食肉アレルギーが少ない理由と考えられるのです。

原因不明のアレルギーの中に食肉アレルギーが混ざっている?

ところが…これまで原因不明のアナフィラキシーと考えられて来た症状の中に、実は食肉の遅延性アレルギー反応によるものが、混ざっているのではないか、という見解が最近提唱されています。

一体何故、そんなことが起こるのでしょうか?

それは、赤身の肉に多く含まれる成分である、galactose-α-1,3-galactose(略してα-Gal) と呼ばれる一種の糖鎖が、抗原となってそれに対する特異的なIgE抗体を造り、それが食肉アレルギーの原因ではないか、という仮説です。

α-Galに対するIgE抗体の存在は、そもそもセツキシマブという抗癌剤の副作用の分析から発見されました。

セツキシマブの使用により、アナフィラキシーが、特定の地域の患者さんに多く発生し、その原因を分析したところ、セツキシマブ自体の構造にα-Galと同じ糖鎖があり、それに対するIgE抗体が存在する患者さんに、症状が発現することが確かめられたのです。

アナフィラキシーは通常、予め特異的なIgE抗体が存在する場合に、2回目以降の抗原との接触で、生じる現象の筈です。

しかし、セツキシマブのアナフィラキシーは概ね薬剤の初回の投与で発症しています。

つまり、セツキシマブでアナフィラキシーを起こした患者さんは、それ以前に何らかの形で、α-Galの抗体を産生するような機会があった筈です。

それは一体何だったのでしょうか?

赤身の肉にα-Galが多く含まれていることより、ここで食肉アレルギーとセツキシマブのアレルギーが結び付きます。

両者は同じようにして起こっている現象なのです。

しかし、牛肉を食べても、体内にはα-Galに対する抗体は産生されません。

吸血ダニに咬まれると、食事後3~6時間後にアナフィラキシーを起こす

その初回の産生刺激は、意外なことに、アメリカ南東部に多い、吸血ダニに咬まれることにより産生されることが、最近になって初めて明らかにされました。

通常IgE抗体というのは、蛋白質の抗原に対して産生されます。
α-Galは糖鎖であって蛋白質ではありません。

ところが、ダニに咬まれてダニ蛋白に感作されると、同時にα-Galに対する抗体が産生されるのです。

何故そんなことが起こるのでしょうか?

そのメカニズムは不明です。

メカニズムは不明ですが、実際にそうしたことが起こり、ダニに咬まれてからしばらくして、肉を食べると、その肉に含まれるα-Galと身体が反応して、概ね食事後3~6時間後に、アナフィラキシーのような強いアレルギー反応が起こるのです。

何故症状発現まで時間が掛かるのかについては、身体に吸収されたα-Galが、中性脂肪のリポ蛋白上にくっついて、それが抗原として認識されるので、時間が掛かるのではないか、という説がありますが、まだ実証されたものではないようです。

赤身肉アレルギーと虚血性心疾患との関連を調査

これも最近になって、赤身肉アレルギーと虚血性心疾患との関連が指摘され、それほど精度の高いデータではありませんが、その関連が注目されています。

今回の研究はその点を、心臓病に関わる疫学研究のデータを解析することで検証したものです。

対象は虚血性心疾患を疑って、冠動脈CT検査を施行した1056名で、血液中のα‐Gal抗体を測定して、その解析を行なっています。

その結果、年齢や性別、他の虚血性心疾患のリスク因子を補正して比較したところ、α‐GalのIgE抗体が陽性であることで、石灰化のない動脈硬化巣(プラーク)のリスクは1.62倍(95%CI:1.04から2.53)、閉塞性の虚血性心疾患のリスクは2.05倍(95%CI:1.29から3.25)、それぞれ有意に増加していました。

また、ST上昇を伴う心筋梗塞の患者では、健康なコントロールと比較して、α‐GalのIgE抗体の陽性率が、12.8倍も高くなっていました。

赤身肉アレルギーと心筋梗塞に何かの関係があるのは間違いない

このように赤身肉アレルギーと心筋梗塞との間に、一定の関連のあることは間違いがなさそうですが、それが直接の関係であるのか、それとも何か別の因子が介在しているのか、現時点では何とも言えません。
ただ、この関係性は非常に興味深く、今後より詳細な検証が行われることを期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36