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2021.12.17

漆器で格式高く召し上がれ。石川県の武家料理「治部煮」【ニッポン地元メシ#11】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

兼六園©石川県観光連盟

兼六園©石川県観光連盟

日本海に面しており縦に細長くたたずむ石川県。

日本の棚田百選に認定される白米千枚田(しろよねせんまいだ)や輪島塗で有名な能登エリア。兼六園や近江町市場、加賀百万石の武家文化を今に受け継ぐ城下町の金沢エリア。山代・山中・片山津・粟津という4湯からなる、北陸屈指の温泉郷としても親しまれる加賀エリア。日本三名山のひとつである白山の美しい自然を堪能できる白山エリアと、4つのエリアで違う楽しみが味わえるのも魅力です!

石川県は伝統野菜の宝庫

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食に関しても暖流と寒流が交わり、その潮の流れが能登半島にぶつかることから恵まれた漁場となっています。特に夏には岩ガキ、冬には香箱ガニ(ズワイガニのメス)、加能ガニ(ズワイガニのオス)、のどぐろなどの高級な魚介も多くみられることで有名です。

棚田で大切に育てられたお米はもちろん、金沢には藩政期から市民に親しまれてきた伝統野菜があり、さつまいもや加賀れんこん、加賀太きゅうりなど15 品目が「加賀野菜」としてブランド化されています。

そんな自然に囲まれともに過ごしてきた石川県にはたくさんの郷土料理が存在しますが、第11回は「治部煮(じぶに)」を紹介します。

治部煮とは

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治部煮(じぶに)という珍しい名前の煮物は、石川県を代表する武家料理のひとつです。
名前の由来には諸説あり、この料理を朝鮮から日本へ伝えた岡部治部衛門(おかべじぶえもん)から付いたという説や、「じぶじぶ」という音を立てて煮るからという説などがあります。

治部煮には様々な食材が使われていますが、特徴的な食材は「鴨肉」と「すだれ麩」ではないでしょうか。
江戸時代、加賀藩の土地には多くの鴨が飛んできたということもあり、鴨が使われるようになったといわれています。
すだれ麩とは巻きずしを作るときにおなじみの竹でできた「すだれ」に、小麦粉で作った生地を包んで作る麩です。そのため、見た目にもギザギザとしたすだれ模様を楽しむことができます。

小麦粉で旨味を閉じ込めてとろみもプラス

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/jibuni_ishikawa.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/jibuni_ishikawa.html)

作り方は鴨肉(もしくは鶏肉)に小麦粉をはたいて、すだれ麩や椎茸、にんじん、ほうれん草などの季節の野菜と一緒にだし汁を使って煮込みます。
調味料は醤油や砂糖、酒といった親しみのあるものが基本です。

小麦粉をはたくことで肉のうまみを閉じ込めるだけでなく、完成した時に汁にとろみをもたらしてくれるのが特徴です。小麦粉は片栗粉やそば粉で代用されることもあるようです。
寒い地方だからこそ、このとろみがあることで冷めにくいというのは大きなポイントですね。

そして盛り付けにも大きな特徴があります。
治部煮には口が広く底が浅い専用の漆器に盛りつけるという様式があり、これは格式の高さの表れでもあります。
石川県には輪島塗や金沢漆器といった伝統工芸品として漆器も多く存在していますので、ぜひあわせて楽しみたいですね。

器に盛ったら最後にわさびを天に盛りいただきます。このわさびが優しいとろみのある煮物のアクセントとなり治部煮の完成です。

治部煮の栄養

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治部煮に使われる鴨肉ですが、鶏肉よりも赤身が強いのが特徴です。
鴨肉にはタンパク質はもちろん、鶏肉と比べて鉄や亜鉛といったミネラルが多く含まれています。
鉄は身体の隅々まで酸素を届けるために必要なミネラルで、貧血の予防にも役立ちます。
成長期の子どもや女性、激しい運動をする方は特に鉄の消費が激しいため、不足しないように気を付けたい栄養素でもあります。

亜鉛は細胞の生まれ変わりを助ける働きがあり、綺麗なお肌やつやのある髪の毛を育てるためにも大切となる栄養素です。不足すると味覚障害などの症状がおこります。
鉄や亜鉛は、特に偏った食事をしがちな現代人に不足しやすい栄養素でもありますので、食事からしっかりと摂れると良いでしょう。

また、肉類ではビタミンCや食物繊維が摂りにくいのですが、きのこ類や季節の野菜を加えることでこれらを補うことができます。
特に人参にはβカロテンという抗酸化作用の強い成分が含まれており、これは必要な分だけ体内でビタミンAに変化します。ビタミンAは目の明暗を感じる反応を助ける働きや細胞の潤いを保つ働きがありますので、乾燥しがちな冬の体調ケアには欠かせない栄養素です。

これらのことから治部煮は一つのお椀の中に栄養素がぎっしりと詰まっている料理だと言えます。

堪能してみたい、加賀百万石の伝統文化

©石川県観光連盟

©石川県観光連盟

石川県の観光PRマスコットキャラクター「ひゃくまんさん」もよく見かけるようになり、より小さな子供や若い方にも石川県を知っていただく機会が増えたように思います。また北陸新幹線が開業したことでより訪れやすくなりました。

石川県は江戸時代に花開いた加賀百万石の伝統文化が受け継がれていることから、新鮮な食材おいしい料理はもちろんのこと、美しい工芸品が数多く存在するのも魅力のひとつです。お椀でもおなじみの「輪島塗」、繊細な模様が美しい「九谷焼」、見る者を圧倒するしなやかな「加賀友禅」など、優れた職人の技によって作り出されて受け継がれている工芸品もぜひ日常に取り入れてみてはいかがでしょうか。

「ニッポン地元メシ」過去連載はこちら

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

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管理栄養士・料理家
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

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