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2021.11.11

PM2.5が及ぼす生命予後への影響とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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大気汚染の原因ともなる「PM2.5」。目に見えないものだけに、どれくらい人体に影響があるかはわかりにくいですよね。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に2021年10月8日ウェブ掲載された、微小粒子状物質(PM2.5)の曝露量と、生命予後のとの関連を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

肺の末梢気道まで入り込む微小粒子状物質「PM2.5」

微小粒子状物質「PM2.5」というのは、直径2.5μm以下の大気中のごく小さな粒子のことで、肺の末梢気道まで入り込んで沈着する可能性があることより、喫煙と同じように呼吸器疾患などの原因になる可能性があり、これまでに気管支喘息などとの関連が報告されています。

その発生源は工場などから出されるばい煙や粉じん、排気ガス、黄砂のようなものまで様々です。

その規制のガイドラインとしては、日本では1年平均値として15μg/㎥以下という基準が設定されていますが、WHOは将来的な目標として10μg/㎥以下という基準を提示しています。

ただ、そうした被曝量が、果たして実際にどのような影響を住民の生命予後に与えるのかというような問題は、それほど明確に検証されている、という訳ではありません。

PM2.5の健康への影響を調査

今回の検証はカナダにおいて、663100名の住民を1996年、2001年、2006年で調査し、その時の大気の状態と生命予後との関連を比較検証しているものです。

その結果、PM2.5の曝露量が10.6の状態から7.4の状態の地域に移動すると、5年間での死亡リスクは6.8%(95%CI:1.7から11.7)、有意に低下していました。その一方でPM2.5の曝露量が4.6から9.2の地域に移動すると、死亡リスクは今度は増加する傾向を示しました。

この地域の移動による死亡リスクの低下は、心血管疾患による死亡リスクで最も顕著に見られ、その一方で曝露量が増加した地域においては、呼吸器疾患による死亡リスクの増加が、より顕著に認められました。

癌による死亡リスクについては、曝露量の変化による影響は認められませんでした。

基準内の数値でも死亡リスクに影響が

このように現在の基準では、それほどのリスクはないと考えられている曝露量においても、その変化による死亡リスクには明確な影響が認められていて、今後その影響はより詳細に検証される必要がありそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36