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2018.07.11

アルコール依存症の脳内メカニズム【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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芸能界のニュースなどで最近よく話題になる、アルコール依存症。
お酒を常飲してアルコール依存症になるかどうかは、体質によって決まる可能性があるのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2018年のScience誌に掲載された、アルコール依存症の脳内メカニズムを検証した、ネズミの実験の論文です。

▼石原先生のブログはこちら

アルコール依存症になりやすい体質がある?

アルコール依存症というのは、「大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態」と厚労省のサイトには記載をされています。

その原因は多量飲酒ですが、同じように多くのアルコールを飲んでいても、全ての人が依存症になるという訳ではありません。

多量飲酒によって依存症になりやすい体質のようなものが、あることは間違いがなさそうです。

それは一体どのようなものなのでしょうか?

この点については厚労省のサイトを見ても、遺伝子がどうであるとか、性格的傾向がどうであるとか、少し書いてはあるのですが、あまり説得力のある記載ではありません。
この部分についてはどうもあまり明確なことが、分かってはいないようです。

ネズミにアルコールを飲ませ、10週間の行動を観察

すると15%のネズミが甘い液体よりアルコールを好むようになった

今回の研究はその点を明らかにする目的で、ネズミに甘い液体とアルコールとを交互に飲ませ、それから今度はアルコールか甘い液体かを、ネズミに選ばせるようにして、10週間というネズミの実験としては長い観察期間をおき、ネズミの行動を観察しています。

本来はネズミは甘い物を好む筈なので、多くのネズミはアルコールより甘い液体を選びましたが、15%のネズミはアルコールの方を選ぶようになりました。

これはつまり、大量飲酒の習慣のある人が、アルコール依存症になるのと良く似た現象と、考えることが出来ます。
本来より大事なものより、アルコールの方を選ぶという性質がある、ということを意味しているからです。

アルコール依存症の原因は、GABAトランスポーターの機能低下

このアルコールを好むネズミの脳の遺伝子発現を調べたところ、情動に関わる扁桃体という部分で、抑制系の神経伝達物質であるGABAの濃度を調節する、GABAトランスポーターのGAT-3というタイプの、機能の低下が認められました。

このGAT-3の活性低下がアルコール依存症の原因と考え、その遺伝子発現を抑える処置を行うと、アルコールを選ぶ行動を取る確率が、明確に増加しました。

死亡したアルコール依存症の患者さんの脳を調べてところ、そうでない死亡者の脳と比較して、例数は少ないものの、GAT-3関連の遺伝子の発現の低下が認められました。

人間のアルコール依存症も同じメカニズムか?

こうしたタイプの医学誌の論文では、人間のデータはおまけ程度のものなので、ほぼネズミの実験の知見ではあるのですが、扁桃体のGABAトランスポーターの機能低下により、アルコール依存症が生じるという知見は非常に興味深く、今後本当に人間の依存症においても、そうしたメカニズムが存在するものなのか、研究の進捗に期待をしたいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36