2021.10.15
好きこそものの上手なれ:上達の極意は好きになること【健康ことわざ#23】
イラスト:今井ヨージ
好きこそものの上手なりけれ:半時庵淡々編「其角翁十七回忌」(1723年)など。
意味:好きであることが物事の上達の道だということ。
解説
習い事の上達の秘訣は好きになることだ、とこのことわざは言います。
好きになれば、ますますその習い事に熱が入り、上達します。上手くなれば更にそれが好きになり、一層上達する。その好循環が大事だというのです。これは習い事だけではなく、勉強や仕事についてもいえることなのでしょう。
好きと言っても、「下手の横好き」のことわざもあります。横好きは、むやみに好きなことの意味です。これは、下手なくせにそのことが無性に好きなたとえです。このことわざを自分について言う時は、謙遜した物言いになります。
それに対して「下手の長談義」は、話下手の人に限って長々と話が続き、周囲の人が迷惑することですから、聞き手にとっては迷惑千万です。
失敗に関することわざ
「上手の手から水が漏れる」は、どんな上手だと言われる人や名人にも失敗はある、の意味です。とても上品な言い回しです。
同じ意味のことわざに、もっと親しみやすい「猿も木から落ちる」、「弘法も筆の誤り」、「河童の川流れ」などがよく知られています。ただし、これらを使う時には注意が必要です。上の人に「猿も木から落ちる」などと申し上げますと、その人を猿にたとえていることになるからです。その点では、「上手の手から水が漏れる」とすれば、当たり障りのない表現になります。
趣味を楽しむのは気分転換にもなり、社会人にとって大切なことです。ストレス発散になり、健康にもよいはずです。しかもその趣味の上達の程が高くなれば、自信にも繋がります。まず「好きこそものの上手なれ」、その趣味を好きになることです。
上手、下手の関係について述べたことわざに、「下手こそ上手の上の飾り」があります。
ふつうは、下手があるから上手なことが知れる、と解釈しますが、深い意味があります。「初心に帰り、下手にも物を問うこと、これが上手のつとめ」と、安土桃山時代の能の花伝書にあります。いつも謙虚に努力し、下手と言われている人にも質問して意見を聞きなさいとの言葉です。趣味や芸の道は奥深いのです。
執筆者プロフィール
■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い