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2020.11.06

柿が赤くなると医者が青くなる:秋の爽やかさは心身の癒しの季節【健康ことわざ#1】

渡辺慎介

イラスト:今井ヨージ

イラスト:今井ヨージ

『柿が赤くなると医者が青くなる』  作者:不明。類似のものは東岳外史著「諺叢」(1832年)などに、いくつか見られる。

意味:柿が赤くなる頃は、一年の中でも最も気候がよい時期。その頃には体調を崩す人が少なく、医者は商売にならずに青ざめてしまう。

解説

このことわざと同じ意味のことわざに「秋刀魚が出ると按摩が引っ込む」があります。「柿が赤くなる」も「秋刀魚が出る」も、秋の到来を表す言葉です。近年の異常気象は、極端な高温の日が増すばかりか、それを長引かせて秋を短くしています。「天高く馬肥える秋」が示すように、澄み切った空の下で食欲が増進し季節の味を楽しむ、といった秋の醍醐味を満喫する期間もすぐに終わり、あっという間に冬に入っているように感じますよね。

夏の高温多湿の気候は、単に熱中症により体の調子を狂わせるだけでなく、様々な病気や不調の原因になります。夏の疲れが残る身体を癒すように、爽やかな秋があってこそ、私たちの健康は保たれています。ことわざの題材となっている「赤い柿を食べる」、「秋刀魚を食べる」は健康の源であると述べているのではなく、単に秋の到来の象徴として使われているに過ぎません。

しかし、実際に柿にはビタミン、ミネラルが豊富に含まれ、秋刀魚にはEPAやDHAなどの不飽和脂肪酸が含まれ、ともに身体にはよい働きをすることが知られているなど、あながち誇張とも言い切れないことわざなのです。また、同じ意味のことわざに、「蜜柑の皮が色付くと藪医者の顔が青(く)なる」、「柚が黄になると医者が青(く)なる」もあります。

「柿」は結実までの期間が長いことの比喩にも使う

柿を使ったことわざの中には、「桃栗三年柿八年」のように、柿は種を蒔いてから結実までの期間がやや長いことから、物事の結果が出るには相応の時間がかかるということを伝えるものも広く知られています。さらに、このことわざの後に、「柚子は九年」や「梅は酸いとて十八年」と続けるなど、言葉遊びの奥深さを楽しませてくれます。さらに、「桃栗三年後家一年」と言って、後家の操は一年しかもたない、とまた違った人生訓を伝えるパロディもあります。

参考までに、柿の英語はkakiが用いられ、フランス語も同じくkakiと書きます。スペイン語ではcaquiですが、発音は変わりません。日本語の発音が、広く世界に行き渡る珍しい果実なのです。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授
物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる。写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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