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2021.08.26

食事の脂に注意すれば、片頭痛は予防できる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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片頭痛は割れるような頭の痛さに加えて、吐き気なども伴う辛い症状が特徴。どうにかしてこの頭痛を予防する方法はないのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2021年6月30日ウェブ掲載された、片頭痛の予防のための食事療法の有効性についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

片頭痛を予防することは出来るのか

片頭痛は慢性頭痛の代表です。頭の片側のズキズキする拍動性の頭痛で、嘔吐などの症状を伴い、目の前にギザギザの光が走るような前兆を伴うことがあります。その発作は短期間に繰り返す事が多く、日常生活に大きな負担となります。

頭痛は脳血管の拡張により起こる、という考え方が以前は主流でしたが、現在では脳の表面の硬膜に分布する脳神経の三叉神経が刺激され、一種の炎症を起こすことがその主な要因と考えられています。

その発作の治療には、トリプタン製剤と呼ばれるセロトニン受容体作動薬が使用され、今年からは神経刺激性のペプチドであるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)への抗体が、注射薬として使用開始されています。

ただ、いずれの薬も非常に高価で、発作を完全に抑えるというほどの効果はありません。

頭痛に影響するのは、食事中の脂肪酸?

片頭痛の発症には環境要因の関与も大きいと考えられています。その1つとして注目されているのは食事中の脂肪酸の影響です。

多価不飽和脂肪酸にはn-3(オメガ3)系とn-6(オメガ6)系があり、n-3系の代表はEPAやDHAで、n-6系の代表はリノール酸やアラキドン酸です。この多価不飽和脂肪酸は、代謝を受けるとオキシリピンと呼ばれる代謝物となり、神経終末を刺激して神経を活性化したり、逆に抑制したりする働きを持っています。

EPAやDHAは血管の炎症を抑制し、動脈硬化の進行を予防するような働きを持つことが知られていますが、神経終末においても痛みの伝達を抑えるような働きを持ち、その一方で拮抗するリノール酸は、痛みの刺激を強めるような働きを持っています。

それでは、n-3系脂肪酸であるEPAやDHAを増やし、n-6系脂肪酸であるリノール酸を減らす食事を摂ることにより片頭痛の抑制に繋がるのでしょうか?

EPAとDHA、リノール酸の量を調整した食事で、経過観察

今回の研究はアメリカの単独施設において、1ヶ月に5~20日は片頭痛発作のある患者182名を、くじ引きで3つの群に分けると、1つ目の群は平均的な脂肪酸組成の食事を継続し、2つ目の群はEPAとDHAを強化した食事を継続、3つ目の群はEPAとDHAを強化した上にリノール酸を減らした食事を継続して、16週間の経過観察を行なっています。

標準的な食事はEPAとDHAを併せて1日150mg未満で、総エネルギーの7%程度がリノール酸であるもので、EPAとDHA強化群は両者を併せて1日1.5グラムとするもので、リノール酸の減エネルギーの1.8%以下にするものです。

こうした変化は、主に使用する油の成分と、脂の多い魚を用いるかどうかなどで調整されています。

その結果、トータルな生活の改善においては明確な差は3群で認められませんでしたが、1ヶ月のうちの頭痛回数は、通常の食事群と比較して、EPAとDHA強化群では2.0日(95%CI:-3.3~-0.7)EPAとDHA強化に加えてリノール酸抑制群では4.0日(95%CI:-5.2~-2.7)、それぞれ有意に抑制されていました。

1日のうちの頭痛時間や中等症以上の頭痛時間についても、同様の傾向が認められました。

脂肪酸の摂取パターンを変えれば、片頭痛は抑制できる

つまり食事により脂肪酸の摂取パターンを変えることにより、片頭痛患者の片頭痛発作は抑制され、その効果はEPAとDHAを増やすだけより、それに加えてリノール酸を抑制することにより、より高い効果に結び付いていた、ということになります。

今回の結果は全くお金を掛けることなく、高価な薬とほぼ同等の効果が達成されたという点で大きな意義のあるもので、今後より実践的な検証に繋がることを期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36