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2021.04.15

コロナ回復後に起こる「新型コロナウイルス罹患後症候群」とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナは、回復後もだるさや味覚障害などの体調不良が続くケースが多いと聞きます。どれくらいの頻度でどのような体調不良が起きるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に2021年3月31日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症回復後の生命予後について検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

コロナから回復しても体調不良が続くケースがある

新型コロナウイルス感染症から回復後に、長期間だるさなどの体調不良の続くことがあることや、心筋の異常や肺機能の異常などの所見が、回復後も長期間持続することがあることは、これまでにも多くの報告があります。

こうした現象をどう呼ぶかはまだ統一されていないようですが、上記文献の記載では、英国国立医療技術評価機構(NICE)は、12週間以上持続する新型コロナウイルス感染に伴うと思われる、兆候や症状を「Long covid」や「post-covid syndrome(新型コロナウイルス罹患後症候群)」と定義しています。これは日本語訳は定まったものはないようです。

新型コロナウイルス罹患後症候群には多くの報告がありますが、その対象者や解析法はまちまちで、その罹患率も明瞭とは言えません。

退院後も4人に1人が再入院し、8人に1人が死亡

今回のデータはイギリスにおいて、新型コロナウイルス感染症に罹患して入院し、回復して退院した47780名の患者を非感染者とマッチングさせて、退院後の死亡、入院、心血管疾患や慢性腎臓病、呼吸器疾患や糖尿病などの発症リスクを比較検証しています。

その結果、47780名の感染者の中で、観察期間中に24.9%が再入院し、12.3%が退院後に死亡していました。

つまり、新型コロナウイルス感染症で入院した患者のうち、回復して退院しても、そのうちの約8人に1人は数か月以内に死亡しているという、かなりショッキングなデータです。

これを別の形で解析すると、年間患者1000人当たり、766人が再入院し、320人が死亡する、ということになります。コントロールと比較した再入院のリスクは3.5倍、死亡のリスクは7.7倍と算出されています。

退院後の臓器疾患新規発症リスクも増加

退院後の臓器疾患新規発症のリスクも、心血管疾患発症リスクが3.0倍、慢性肝疾患のリスクが2.8倍、慢性腎臓病のリスクが1.9倍、糖尿病の発症リスクが1.5倍と、新型コロナウイルス感染事例で高くなっていました。

特に呼吸器疾患でみると、年間患者1000人当たり全ての呼吸器疾患のリスクは770.5件、新規の呼吸器疾患発症リスクは538.9件で、これは再入院のリスクにかなり近い、と見ることが出来ます。

重症の事例で予後が悪いのかと言うと、必ずしもそうではなく、集中治療室に入室した事例とそうではない事例との比較では、退院後の呼吸器疾患と糖尿病のリスクは、確かに集中治療室入室事例の方が高かったのですが、死亡や再入院はむしろ集中治療室入室事例で低い、という結果になっていました。

この新型コロナウイルス感染症回復後の死亡リスクの増加は、70歳以上より70歳未満の年齢層でより高く、白人種と白人種以外との比較では、白人種以外で高いという傾向が認められました。

このように、新型コロナウイルス感染症の入院事例では、回復後に明確に死亡リスクの増加が認められ、それは新型コロナウイルス感染症の急性期とは異なり、70歳以下の年齢層でより多く、呼吸器疾患の悪化が1つの大きな要因として考えられますが、それだけでは説明困難な現象です。

ただ今回の研究では、過去の医療データから平均化したコントロールと比較していて、新型コロナウイルス感染流行期においては、コロナ以外の診療はかなりレベル低下が想定されますから、その影響が大きいという可能性もあります。

罹患者には定期的な健康観察を

いずれにしても、今後この現象の解明が急務であり、日本でもこうした研究が早急に行われることを、強く希望したいと思います。

確定患者は全員登録して、その後1年は定期的な健康観察を行うような仕組みが、あって然るべきではないでしょうか?これは「新型コロナ後遺症」と称して、ワイドショーやニュースのネタにするような、そんな次元の話ではないのです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36