メニュー

2020.04.12

新型コロナウイルス肺炎がARDSへ進展する時の特徴は?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

新型コロナウイルスで怖いのは、高度の呼吸不全である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に進展してしまうこと。どんな人がARDSになってしまうのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に2020年3月13日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス肺炎の中国の単独施設における、201名の患者の解析です。
その進展はともかく目まぐるしいので、やや周回遅れの感じもするデータですが、記録のためにまとめておきます。

▼石原先生のブログはこちら

武漢の入院事例をまとめて、特徴を解析

これは武漢市金銀潭病院(Wuhan Jinyintan Hospital)での、2019年12月25日から2020年1月20日に新型コロナウイルス肺炎と診断された、201例の入院事例をまとめて解析したものです。

ここは武漢市での初期治療に当たった病院で、1月29日のLancet誌には、2020年1月1日から20日の入院事例99例をまとめた論文が、既に掲載されています。

今回の論文は独立したものと言うより、そのLancet論文のアップデート版とでも言うべきもので、事例はより増え、観察期間も2月13日までと延長されています。

201例の肺炎事例の年齢の中央値は51歳で、全体の63.7%に当たる128名が男性です。

イタリアのデータでも6割が男性となっていますから、この病気がやや男性に多く発症している、ということはほぼ間違いがなさそうです。

ただ、当初言われていたほどの性差はなく、その意味合いも現時点では不明です。

65歳以上は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のリスクが3倍以上

このうちの41.8%に当たる84名が、高度の呼吸不全である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症し、発症した84名のうち52.4%に当たる44名が死亡しています。以前のLancetの論文では死亡は11名でしたから、3週間弱の間に死亡者は急増していることが分かります。

ここでARDSやそれによる死亡のリスクと関連のある因子をみると、65歳以上の高齢であることは、ARDSに移行するリスクを3.26倍(95%CI: 2.08から5.11)、死亡するリスクを6.17倍(95%CI: 3.26から11.67)、それぞれ有意に増加させていました。
白血球減少、血液のLDHやDダイマーも高値も、ARDSや死亡のリスクを増加させる因子となっていました。
一方で39度以上の高熱が出た患者さんはそうでない場合と比較して、ARDSに移行するリスクは1.77倍(95%CI:1.11から2.84)と増加していましたが、死亡のリスクは59%(95%CI: 0.21から0.82)と有意に低下していました。
ARDSの患者さんのうち、ステロイドのメチルプレドニゾロンを使用したケースでは、死亡のリスクは62%(95%CI: 0.20から0.72)有意に低下していました。

この論文ではステロイド治療に有効性が認められているのですが、その後の臨床データではこの見解を否定するものが多く、新型コロナウイルス肺炎に起因するARDSに対して、ステロイド治療が有効であるかどうかは、まだ結論が出ていない事項と考えた方が良いようです。

重症になるとARDSに進展し、死亡するリスクが高率に

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、8割が軽症で回復する一方、重症肺炎は高率にARDSを来して死亡リスクが高く、現時点で確実な治療は存在していません。臨床事例を積み重ねることにより、その対応策は明確となることを期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36