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2020.11.21

コロナ禍に役立つ。ストレスに翻弄されない禅の基本的な考え方【暮らしと禅#1】

kencom公式ライター:春川ゆかり

2020年、新型ウイルスの蔓延が私たちの暮らしに大きな変化をもたらしました。

実態がはっきりしないウイルスへの感染の不安もさることながら、生活様式や働き方など多方面に影響が及び何かと気苦労を感じることも多かったのではないでしょうか。
こうした例年とは異なる「忙しさ」、さらに他者から大きく行動を制限された今、心身を健全に保つための方法も考えていく必要がありそうです。

今回は、私たちの心に穏やかさを取り戻すべく、「禅」について崇禅寺副住職・西岡秀爾さんにお話をうかがいました。

西岡秀爾(にしおか・しゅうじ)

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崇禅寺副住職、上智大学グリーフケア研究所客員所員

1976年生まれ。大阪府立大学社会福祉学部卒。2006年より、大阪市にある曹洞宗崇禅寺(そうぜんじ)の副住職となる。花園大学准教授を経て、現在、上智大学グリーフケア研究所客員所員・関西学院大学大学院人間福祉研究科大学院研究員・花園大学国際禅学研究所客員研究員・臨床仏教研究所特任研究員などを務める。

常に心を”空”にする「禅」の考え方とは

「かたよらない・こだわらない・とらわれない」

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「禅」の基本となる考え方は「かたよらない・こだわらない・とらわれない」です。これは、人・物事など対象を限定せず、万物において共通する見方です。

例えば「感情」といった目に見えないものに対しても、その瞬間の感情に「固執しない状態」を目指していきます。
具体的には、気持ちが暗たんとするときにも、その不安も無理に消そうとせずに自分の中で「何故、この不安や違和感は生まれているのか」に向き合い、どうにか受け入れ、雲が流れゆくようにその感情が過ぎ去るまで眺めてみましょう。

「無常(むじょう)」という言葉があるように、悪いことだけではなく良いことも永遠には続くことはありません。目の前がどれほど辛く苦しくとも、その感情に支配されず、そして追いかけることもせず、ゆっくりとその瞬間が過ぎ去るのを待つ。

この考え方こそが、「禅」の基本です。

「あるがままの自分」でいる

基本的な考え方に加えて、禅(・仏教)では「等身大の自分でいること」「ありのまま・あるがままの自分でいること」を重要視しています。

禅の考え方は「こうあるべき」というスタンスではなく、「自分の物差しで生きること」に重きが置かれています。もちろん、仕事や物事を成し遂げる上で「型(かた)」を覚えることも大切ですが、型を元に「さらにその型を超えていく」「型を打ち破っていく」という、最終的には周りに振り回されることのない自分主体の生き方を指します。

そのため、修行の一環である「座禅(坐禅)」では、目的や目標にとらわれることなく、姿勢を正し呼吸を整えながらフレッシュシンキング・フリーシンキングを促していきます。

何かを目指していくということではなく、今のこの瞬間瞬間を受け入れていくことが禅の道の第一歩といえるでしょう。

シーン別。禅の教えから学ぶ、心を軽くする考え方

生活様式が突然変わったことによって、家族や友人、同僚など身の回りの人たちも自分と同様にストレスを抱えています。そのため、以前では考えられないような不和が起こった方も多かったのではないでしょうか。

ここではシーン別の悩みに対して、禅の考え方をあてはめてみましょう。

新型コロナという社会共通の課題に対する不安

ウイルスに限らず、人間は目に見えないものや未知のものに対して恐れの感情を抱きます。これは人間の生存本能ゆえの感情ともいえるため、「恐れ」そのものに非はありませんが、その感情にとらわれることは非常に苦しいものです。

こうした不安・苦しさを感じたときには、まずその状態の自分をしっかりと受け入れましょう。そっと目を閉じて、深呼吸を行い、心を支配している感情を隅々まで受け入れ切ったあと、可能であれば「永遠には続かない」と心に認識させます。

変化から生じた強い刺激をまずは「深呼吸」することで受け止め、そのあと、「無常である(=永遠には続かない)」と認識すること。

すぐに心が移り変わることはなくとも、思わず目をつむってしまうような刺激的な色合いも、ゆっくりと淡い色合いに変化していくことを実感できれば心に落ち着きを取り戻せてきた証であるといえます。

自粛によって家庭で不協和音?家族や親族に対する疎ましさ

家族それぞれが新たな生活スタイルに順応するストレスに加えて、これまでよりも顔を合わせる時間が増えたことで、家族間でのコミュニケーションがうまくいかなくなったという方も少なくありません。

この際に生じやすい思いは「自分は頑張っているのに、どうして同じように動いてくれないんだろう」「どうしてわかってくれないんだろう」といった思いです。一番近しい関係性の家族だからこそ、大変さをわかってほしいと思うことは当然ですよね。

もし、怒りに振り回されてしまうときには「距離を置く」ことも一つの手です。例えば、言い合いがヒートアップしているとき、言いたいことはまだまだあったとしても、論破する方向にもっていくのではなく、自分の”怒り”を認識した時点で席を外すというイメージです。

怒りの感情任せに言葉を発していては、なかなか健全な話にはつながらないため、「自分はどうしてほしいのか」「この先、どうしたいのか」など、互いを尊重し前向きに話し合えるまで物理的な距離を取ってみましょう。

慣れない在宅勤務がストレス。就業環境の変化に伴う孤独感・戸惑い・焦り

社内の人間関係は家族ほど甘えが効かないため、慣れない就業環境に「こんなにできないのは、自分だけだ」と孤独感や焦燥感を自分一人で抱え込んでしまうことがあります。しかし、実際には目に見えないだけで皆それぞれ変化を強いられており、慣れる前に次々と新しい様式が生まれていることから皆が皆、何時においても百点満点ということはありえません。

このように、不安から来る孤独感も焦りも実は「自分が生み出しているもの」と禅では考えられています。その渦中にいる本人にとってはいくつも思い当たる節があったとしても、情報や刺激によってさまざまな感情を巻き起こしているのです。

そうしたときにも、まずは「深呼吸」からはじめましょう。呼吸を軸に、心を支配している「感情」と、支配されてしまっている「自分」とを切り離していくイメージです。

また、孤独や不安感といったネガティブな感情だけではなく、深呼吸は「喜び」「嬉しさ」「楽しさ」でいっぱいのときにも必要です。感情の"色"を問わず、心が忙しくなっているときには呼吸を軸に自分を取り戻しましょう。

自分がコロナにかかるかもしれない。見えない病気に対する漠然とした不安

特効薬やワクチンが開発されていない今、「感染したらどうしよう……」とネガティブな考えに陥りやすい時期です。

まだ起こっていない"未来"に心を支配され自分がしんどくなっているときは「今、この瞬間にできることに集中する」ということを思い出しましょう。

現状の日本の状況で例えるならば、特効薬やワクチンが待たれる中で、私たちにできる最も大切なことは「予防」です。

こまめに手洗い・うがいを行い、少しでも体調に異変を感じたらきちんと休む。
「たったこれだけ?」と思うかもしれませんが、新型ウイルスが流行する前、今ほどの頻度でどれだけの人が手洗い・うがいを行っていたでしょうか?

今できることはすべてやり切っていると自分自身を納得させ、自分を落ち着かせることがとても重要です。
そのときにも、深呼吸を忘れないでくださいね。

バッドニュースに触れ続けることで起こる鬱々とした気分

ここまで読み進めていただいた方は「もしかして?」と勘付いているかもしれませんが、禅は決して「禅」そのものが解決策にはなりえません。そのため、一朝一夕では自分の心の変化を生み出すことは難しいでしょう。

大切なことは、不安や苦しみ・悲しみが訪れるその度に「深呼吸」を行い、感情がゆるやかに移り変わるのを待つことです。

毎日毎日流れるニュースに感情が揺り動かされることは、この状況下においては仕方のないことだといえます。その感情をせき止めるのではなく、「受け入れる」ことに考え方をシフトできると心が軽くなることを少しずつ実感できるかもしれません。

今は我慢すべき?夜の街や友人と飲み会をしたい欲求との向き合いかた

人によって捉え方が大きく変わる「外出」。緊急事態宣言が解除され、適度に外に出る人もいれば一切外にでない人もいます。

個人によって対応に差が分かれやすいからこそ、認識しておくべきポイントは「自分はこうしているのに…」と自分の物差しで相手を判断しないことです。これは、外出の頻度だけに限らず、会食や旅行などにおいても同様です。

自分と人との温度感にストレスを感じた場合にも、まずは深呼吸から始めます。合わせてソーシャルディスタンスに注意しながら、散歩やランニングなど、軽く運動をしたり外の空気を吸ってみたりすると、窮屈な感情から解放されるのを実感しやすいですよ。

禅の考え方でも基本中の基本、「人は人。自分は自分」を心がけましょう。

深呼吸で心を軽く。禅を学んで、2020年を乗り切ろう。

これまでとは日常が一変した2020年。自分が選んだことよりも強いられる"ルール"が多かったため、息苦しさやもどかしさを感じた人は例年以上に多かったでしょう。また、溜まりに溜まったフラストレーションを思いきり発散できる場面も少なく、気を付けていてもつい家族や恋人など近しい人にぶつけてしまった人もいるのではないでしょうか。

ひとつの苦しみが去ったとしても新たな苦しみが生まれることは残念ながら世の常です。心に暗雲が立ち込めたときには「また来たなぁ」と、ひと雨に付き合う気持ちでいられることが自分を見失わずに済むヒントといえるでしょう。

今回ご紹介したことはどれもシンプルですが、実践してみると少しずつ心の移り変わりを実感できる方法ばかりです。

マスクを取って、また皆が顔を合わせて笑いあえるその日まで、自分と大切な人たちの心や関係性を守りましょう。

著者プロフィール

■春川ゆかり(はるかわ・ゆかり)

フリーライター・編集者。大手IT企業にてウェブメディアの広告やマーケティング業に携わる。その後フリーランスのライターとして独立し、住まい・子育て・ヘルスケアなどのジャンルで執筆。

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